『頬』 「零〜紅い蝶〜」二次創作 注意:  この作品は、株式会社テクモから販売された『零〜紅い蝶〜』の人物・世界設定を使用しています。  作中に登場する団体・人物の名称は、全て架空のものです。                           2003/12/21:初版:sugich ------------------------------------------------------------------------------  互いの吐く息が白く見える、クリスマスも押し迫った冬の季節。  コートとかセーターとかマフラーとかホッカイロとかが手放せない十二月。  近くのスーパーでの買い物からの帰り道、人通りも少ない住宅街の中を澪と私は手をつないでゆっくりと歩いていた。  肩に掛けたコットントートのバッグに買った大体のものは入れてあるけれど、空いたはずの私の手には焼きたてタイヤキの入ったビニール袋が一つ──これは家についてからのお楽しみというわけで、つぶあんとカスタードの二種類、二人の意見を尊重した結果。   てくてくてく   コツコツコツ  二人の靴音と、たまに遠くを車が走る音、そして澪が手に持った杖がコツコツと地面を確かめる音が全て。  とくに交わす言葉もないのはいつものこと。  ただ、繋いだ手から伝わる互いの温もりが、私たちにとっては言葉よりなにより大事なものに思えていたから。  私たち二人にとって、これも大切な時間の一つだった。   てくてくてく   コツコツコッ……  クン、と、繋いでいた手が少し引かれる。  澪が立ち止まったことに気づき、私は歩みを止めて振り返った。  家に帰ってからやらなきゃいけないこととかで少し考え事をしていたので、いつもよりちょっとだけ反応が遅れたみたい。 「どうかした?」  澪は空を見上げていた。 「ん……」 「お姉ちゃん。  雪、かな、もしかして」 「え」  同じよう空を見上げてみる。  けれど、どんよりとした雲以外にはそれらしいものはまだ見えない。  目を澪の方に向け直すと、同じタイミングで澪もこちらへと向いて。 「うん、ちょっと冷たいのが、ここに落ちてきたから」  歩いているうちに寒さで少し紅くなったように見える頬を、はじめは互いに繋いだ側の手を動かそうとしてやっぱり止めて、次にわざわざ逆の方の手で指差した。 「……」  とは言っても、ただ見ただけで雪の一片が付いて濡れたかどうかなんてのはもちろんわからない。  だから私は澪の傍に近寄り、 「ここ?」 タイヤキ袋を持った手の指先で触れようとして……止めた。  代わりに、さらにもう一歩だけ澪の傍に近寄ると、ほんのちょっとだけ澪の手を引いてから澪の指が指した場所──澪の頬に、私の頬を近づけた。 「……ん」  間を置かずに、澪も同じようにちょっとだけ身体を動かして頬を私へと寄せてきてくれる。  だから最後に、もう一度だけ私から距離を縮めた。  そして、触れ合う。   ぴと  冷たい。 「ココ。  雨よりも、なんだか落ち方がやわらかいような感じがしたから」 「ふうん」  きっと澪も、私が感じてるのと同じように感じてるんだろうなと思った。         §  身体を離して、再び帰り道を歩き出す。 「朝の天気予報でも言ってたしね」 「でも、澪の頬が感じたのなら、天気予報よりも当てになるから」 「そかな」 「うん」 「お姉ちゃんが言ってくれるなら、そうかも」 「そうだよ」  と、私の目の前を白い小さなカケラが横切った。 「あ」  次々に、額と頬と、鼻の上。  多分髪の上にも。 「……雪、降ってる。いっぱい降り始めたみたい。  今、こっちにもきた」 「うん。  わたしのところにも」 「ほら、やっぱり。  澪の頬は敏感なんだ、やっぱり」 「なんだかえっちな言い方ー、お姉ちゃん、それ」  くすくすと笑いながら。 「だって本当でしょ。  いつも澪の頬を触ってるお姉ちゃんが言うんだから間違いありません」 「お姉ちゃんの表現の仕方がえっちなのっ」 「えっちなお姉さんは好きですか?」 「ちーがーうーってー。  もうっ」  くすくすと笑いながら。  くすくすと笑い声を重ねながら。  ──こういうのも、いいかな。  ──こういうのも、いいよね。  私たちは、急ぐことなく帰り道を歩いていった。  手を繋いだまま、ずっとずっと、二人一緒に。                                   おわり