『常 〜にちじょう〜』 「零〜紅い蝶〜」二次創作 注意:  この作品は、株式会社テクモから販売された『零〜紅い蝶〜』の人物・世界設定を使用しています。  作中に登場する団体・人物の名称は、全て架空のものです。  作中には『零〜紅い蝶〜』のイージー/ノーマル、ハード/ナイトメアモードの一部ネタバレが含まれますので、エンディングをまだ見られていない方はご注意下さい。  また、内容に一部性的表現が含まれますので、十八歳未満の方の閲覧は禁止させていただきます。                           2005/01/05:修正:sugich                           2004/10/22:初版:sugich ------------------------------------------------------------------------------ 「……お姉ちゃん」 「ん?」 「……なんでもない」 「うん……澪」  わたしは最近、お姉ちゃんと一緒にただこうしてリビングのソファの上でぼーっとしていることが多くなった。  お姉ちゃんと肩を寄せ合い、手を繋ぎ合って、ただそこにいるだけ。  なにか考えているようで、でもそれは取り留めの無いことで、次の瞬間にはすぐに忘れてしまうようなことばかり。音量を絞って付けてあるだけのテレビから聞こえるニュースやドラマも、そんな思考の揺らぎにまぎれてしまうような他愛も無いノイズにすぎなくて。  ただただ、お姉ちゃんとこうして寄り添っていることに安らぎ──幸せを感じられる。そんな時間がわたしを満たしてくれている。  それがわたしにとっての『日常』になっていた。  少しだけ、お姉ちゃんに寄りかかるように頭を傾ける。  するとお姉ちゃんも少しわたしの方に頭を傾けて、繋いだ手を軽く握りなおして。  ぴたっと合わされた腕や脚から伝わるお姉ちゃんの温もり、時折もぞもぞと動いて肌が擦れ合う感触、ゆるやかな呼吸のリズム、吐息。頬にかかるさらさらの髪。そしておねえちゃんの匂い、大好きな匂い。  わたしの側にある全てが、わたしを優しく包み込んでいてくれることがわかって安心できる。わたしにはお姉ちゃんがいる、そのことがわたしを救ってくれている。  こんな緩やかで幸せな気持ちでいられるなんて、とても不思議で、とても嬉しくて……でも、今はもうそうでない自分なんて想像できなくなってしまっている。  嬉しくて、暖かくて、安心できて、どこか少しだけこそばゆくて。  ……だからわたしも、お姉ちゃんの手を握り返す。  一度絡められていた指をほどいて、重ねあわされていた手のひらを滑るように反して。お姉ちゃんの手の甲を指先でなぞりながら、人差し指で小指と薬指の谷間を、中指で薬指と中指の谷間を……そうやって次々にお姉ちゃんの手と指のさわり心地を愉しんで。指を引いては谷間を、下ろしてはお姉ちゃんの指の先、爪のなめらかさを感じて。  そうして、もう一度わたしの手はお姉ちゃんの手のひらの下へと滑り込む。お姉ちゃんは自分の手を弄んだいけない妹の手を、もういたずらは許さないっていう風に強く握り締めてきて、わたしもそれに応えるように握り返す。  これは、わたしたち二人のいつもの遊び。  これは、わたしたち二人の秘めやかな合図。  わたしは傾けていた頭を起こすと、お姉ちゃんの方へと向き直る。  空いていたもう片方の手を何かを探してさまようように持ち上げると、わたしの望みに応えるようにしてお姉ちゃんの手が触れてきて、そうして絡めとられ繋がり合う。  温もりが、すぐ側までくる。  大好きな匂いが、すぐ側まできている。  お姉ちゃんの温かさと匂いが、わたしの鼻先にまで近付いてきて。  だから、わたしは。  首をもう少しだけ傾げて、唇を一度閉じて。  もう一度開いて。  声に出さない微かな声、吐息の囁きのような声で──。 「お姉ちゃん」 「澪」  ──重ね合わされる。  くちびる。  ぬくもり。  匂い。  吐息。  ぬれて、こぼれる。  唇と唇が重ね合わされる。  唇と唇とを重ね合っている。  お姉ちゃんの唇と、わたしの唇。  お姉ちゃんの唇が少し離れて、代わりに舌でわたしの唇を舐めてくる。  味わって、押し付けて、唾液をまぶして、やわらかさをやわらかさで舐めとるようにして。わたしの口の周りを全てお姉ちゃんのものにしてしまって。  あごの下にまで、お姉ちゃんが垂れてきてしまって。  わたしの口は、わたしの唇は、お姉ちゃんのものにされてしまっていて。  わたしは、それが嬉しくてたまらなくなって。  だから、お姉ちゃんにもっともっとわたしを味わってもらいたくて、わたしの中に入ってきてもらいたくて。  だから、わたしは催促するように唇を開いた。  そうして、舌をおずおずと下唇の上に乗せるように差し出す。 「…………」  お姉ちゃんの小さな……小さくおかしそうに笑う声を含んだ息が唇を掠めて。  お姉ちゃんの暖かな息が、舌と口の中に吹きかけられるのが感じられて。  わたしは我慢できなくなって、餌をねだるように舌を突き出す。   ぴと  ……と、そのわたしの舌先に、柔らかな暖かさが触れる。  お姉ちゃんの舌。  お姉ちゃんの舌先だ。  わたしは与えられたそれが嬉しくて、もっと触れてほしくて、わたしのものをもっと押し付けようとする。けれどお姉ちゃんはその動きをかわすように離して、一度かわされてひっこめられたわたしの先を、また追いかけるように触れてくる。  触れて、離れて。  逃げて、追って。  互いの舌先だけを、触れ合わせ、つつき合い。舌の先、先のおもて、そのうら、その横を舐めて、踊るように、遊ぶように交わらせ。小鳥達が愛を確かめ合う前の求婚のダンスのように、つかの間の遊びを楽しんで。  夢中になっているうちに、いつの間にか重ねられていた手は互いの背に回されて。  もっと近くに、もっと傍へ。その気持ちとぴったり重ねあわされるように、互いに向き合い、抱き合って。  お姉ちゃんの舌が、離れて、少しだけそのままになった。  それはささやかな舌先遊びの時間が終わる、二つ目の合図。  だからわたしは、一度唇を閉じる。  にちゅと、いやらしい感じの音がした。  繋がれていた手が解かれる。  そのまま、わたしの手を添えて、お姉ちゃん手がわたしの頬の上にやってくる。  わたしはその手をお姉ちゃんの手に沿って滑らせる。  お姉ちゃんの手のひらが、わたしの上気した頬に触れて。  引き寄せられ、引き寄せて。  唇を開いて、開かれて。  もう一度。  そして今度は、もっと深く──。  奪い。  貪り。  侵すために。  ──深く、重ね合わされる。  わたしの中にお姉ちゃんが入ってくる。  わたしの舌をお姉ちゃんの舌が絡めとり、蹂躙する。  わたしの舌がお姉ちゃんの舌を受け入れ、絡まり合う。  温かな柔らかなもの。  舌と舌の絡まりあう感触、にゅるにゅるとした交わり。 「ん、んむ……んぅ」 「む……ん、ん……ぅ」  涎とよだれ、お姉ちゃんのものとわたしのものがぬちゅぬちゅ混ぜ合わされる音。唇の端から垂れて零れて、落ちる。   ぐちゅ ぐちゅ   にゅる にゅるり  舌とした。  涎とよだれ  息と、といき。  その息を継ぐ間もないほど、わたしとお姉ちゃんは求め合う。  求めて、重ね交わり、絡み合う。  鼻から抜ける息。鼻から入ってくる息。  温かな息、匂いに満たされた息。匂い、におい、お姉ちゃんの匂い。  お姉ちゃんの匂いが、口から鼻にやってきて、わたしの中もお姉ちゃんに満たされて。きっと同じように、お姉ちゃんの中もわたしでいっぱいになって。  お姉ちゃんの涎、おねえちゃんの味。お姉ちゃんの味のよだれ。わたしの涎、わたしの味を、お姉ちゃんもいっぱいに味わって。  そうしてわたしとお姉ちゃんは交じり合って、同じ匂いと同じ味とになってしまって。  溶けて、交じり合って、垂れて、流れて。  匂いは広がって、味は混じって一つになって。  わたしとお姉ちゃんは、お姉ちゃんとわたしになって。  二人は一つの匂いと味になって。  だんだんと、だんだんと、わたしとお姉ちゃんとは一つのものになっていくようで。  同じ匂いの、同じ味をした。  同じ顔の、同じ姿かたちの。  同じ血を分けた、同じ繋がりを持った、一つの卵から生まれた二つのいのちが、そうしてもう一度、一つに戻っていくような。  感じられる世界の全ては、ただお姉ちゃんだけ。  わたしの全ては、お姉ちゃんだけ。  お姉ちゃん。  お姉ちゃん。  お姉ちゃん。  お姉ちゃんだけが、わたしの全て。  涙が零れて。  涎が、こぼれて。   ちゅる ちゅる ちゅる   ぬちゅ ぬちゅ ぬちゅぅ  苦しくて、気持ちよくて。  息ができないほどに、気持ちよくて、うれしくて。  繰り返し、くりかえし、何度も、なんども。 「ふぁ……ん、ん……ぅ」 「ん……むふ、んぅ……ふはっ」  唇を離そうとしても、逃げられない。  唇がはなれてしまったら、すぐにもう一度かさね合わされる。  苦しくて、苦しくて、どんなにくるしくても。  気持ちよくて、気持ちよくて、うれしくて、止めることなんて出来ない、できるわけがない。  ただ、ただ、お姉ちゃんと一緒に。  ただ、ただ、お姉ちゃんと一つになって、求めあい、むさぼりあって。  それがこんなにも気持ちよくてうれしくて、それ以外のことをわたしからなにもかも無くしてしまう。考えられなくなってしまう。  おねえちゃん。  おねえちゃん。  おねえちゃん。  おねえちゃんとわたしは一つになっていて。  くるしくて、気もちよくて、わたしはわたしなのに、おねえちゃんだけになってしまう。  わたしの中はおねえちゃんだけ、なにもかも、ぜんぶ、ぜんぶおねえちゃんだけ。 「ん、んぅ……んっ、ふひっ」 「んむ……ん……んっ…んっ」  おねえちゃん。  おねえちゃん。  くうしいよ。  ほねえひゃん。  ひもひいいよ。  ひもひいい。  ひもひ、ひい。  いいの。  いい。  ひ。  ひは、は、ん、ん……んぅ。  ん、んむ……………ん。  ん……………ーーっ! 「……ぉ」 「…………」 「……みお」 「…………はぁ……ん……」  わたしはいつの間にか、お姉ちゃんの肩に頭を預けるようにしていた。  お姉ちゃんの手が髪を優しく梳くように、撫でてくれている。  それが心地よくて、とても安心できて。  息が落ち着くまでずーっとこのままでいるのもいいなぁ……なんて思っていると。 「軽く、いっちゃったんだね、澪」 「…………」 「かわいいんだよねー、澪は」  お姉ちゃんのその言葉がわたしは恥ずかしくてたまらなくて、そのまま知らん振りをしてしまう。 「自分からキスしてって誘っておいて、そんな態度なんだ」  クスクスと笑う声。 「………いじわる」  ぼそっと、恥ずかしいのを誤魔化すように言う。  今日のお姉ちゃんはちょっとだけイジワルモードみたい。  そのお返しにお姉ちゃんの背に回した手をちょこっと伸ばして脇腹をつねってやろうか、なんてことも考えてみたりして。 「でも、仕方ないよね。  私も澪とキスするの大好きだし」  受け答えになってるのかなんなのかよくわからないけど、なんだかやっぱり嬉しいセリフをお姉ちゃんは言ってくれて。 「……うん、そだね。  わたしもお姉ちゃんとするの……好き、だし」  だから、そのよくわからない答えに対してわたしも素直に答えていた。  よくわからないけど、まぁ、いいかなって。  お姉ちゃんに抱かれて、優しく頭を撫でられながら。  幸せの中にいることを、わたしは感じていられるから。 「大好きだよ、澪」 「うん、わたしも大好きだよ、お姉ちゃん……」  お姉ちゃんの囁きにこたえて。  そうして、ゆっくりとわたしの身体はソファの上に倒されていく。  そうして、わたしはお姉ちゃんを優しく抱き留める。  お姉ちゃんとわたし。  二人の『日常』は、こうやって今日も繰り返されていく。  これからも、変わらずに。  これからも、きっと……。                                   おわり