『漏』 「零〜紅い蝶〜」二次創作 注意:  この作品は、株式会社テクモから販売された『零〜紅い蝶〜』の人物・世界設定を使用しています。  作中に登場する団体・人物の名称は、全て架空のものです。  作中には『零〜紅い蝶〜』のイージー/ノーマル、ハード/ナイトメアモードの一部ネタバレが含まれますので、エンディングをまだ見られていない方はご注意下さい。                           2003/12/17:修正:sugich                           2003/12/16:修正:sugich                           2003/12/15:初版:sugich ------------------------------------------------------------------------------ 「全部、全部お姉ちゃんのせいなんだからねっ!  どうしてくれるのよっ!」  わたしは今、お姉ちゃんと対峙している。  ついさっき縄の男(仮名)さんを怒りの零×零×零ショットで粉砕して、そのまま祭壇から続く鳥居の階段を延々下りて、ついに『虚』の場所へと辿り着いた。  そこには、わたしの探していた人がいるはずだったから。  お姉ちゃんが。 「どうするもなにも……いいけど、その格好はどうしたの、澪」 「こ、これは」  そう、わたしの今の出で立ちは一言で言ってとっても恥ずかしいシロモノで。  洋服の上の部分はいつもと変わらないけれど……その下が、スパッツと白いスカートと、それとゴニョゴニョゴニョ……つまり簡単に言うと、スパッツもスカートも履いてなくて、その代わりに紫色の風呂敷のようなものを水着のパレオみたいに撒いているだけの情けない格好だった。 「だって、しょうがないじゃない。  あの後、お姉ちゃんを探してる時に幽霊さんたちに出会うのがここしばらく妙に多くなった原因を考えてたら……もしかしたら、その……」 「その、なに?」 「うー。  ……その……の、あとの匂いが……だからかなぁって」 「聞こえない」 「うー、  だからぁ……のあとの」 「聞こえませーん」 「だからっ!  お漏らししちゃったあとのおしっこの匂いで気づかれて、追っかけられやすくなってるんじゃないかって思ったの! だから、濡れちゃったスパッツとパンツを脱いで代わりにこの探してきた風呂敷を巻いて、それでしばらく歩いてたんだけど、でもやっぱり絶対に恥ずかしくって無理だって、幽霊さん達に会うのが多くなってもかまわないからって思ってもう一度取りに戻ったら、無くなってたの!」 「じゃぁ、その風呂敷の下は、実はノーパ」 「言っちゃダメぇ!  ほんとに、ホントに恥ずかしいんだからね、ホントに恥ずかしかったんだからぁ」  わたしはここに来るまでの屈辱恥辱の様々なできごとを、まるで走馬灯のように思い出していた。         §  だいたい数時間前。  わたしは立花邸で紗重さんに追っかけられている時に、座敷の間で押し入れから飛び出した後行灯についまづいて盛大にすっころんでしまい、そのまま紗重さんにつかまってしまった。  わたし、死んじゃうんだと思ってお姉ちゃんのことを呼びながら気が遠くなって……気づいたら、まだ死んでなくて、紗重さんの代わりにお姉ちゃんがわたしを心配そうに覗き込んでいた。  ホっとして、布団に寝かされているのに気づくと同時に下半身が妙にスースーするのがわかった。イヤな予感がして見てみると、わたしはスパッツもスカートもパンツも履いてなくて、そこには申し訳程度にタオルっぽいものが掛けられているだけ。 「お姉ちゃん、わたし……ナニコレ?」 「あのね……その」  お姉ちゃんはとても言いにくそうに口をどもらせる。 「……もしかして」 「あのねっ、ヘンなことあったんじゃないから、多分っ、絶対っ」  なんとなく、気絶していた間にとっても恥ずかしいことがあったようななかったような、妙に身体が疲れてるというか生気が足りなくなってるような、そんな感覚があった。  なんだかあそこがじーんとするというか、もう、やっぱりもしかしてというか。 「ヘンなことって、なんてゆーか、あーえーうー。  あ、安心して、血の痕なんてなかったから、だから絶対大丈夫だって」  その言葉にちょっと安心する。 「でもね……その、血は出てなかったんだけど、代わりにね……」  ますます小さくなっていくお姉ちゃんの声。 「お姉ちゃん、お願いだからちゃんと話して。  わたし、大丈夫だから、ね」 「う、うん……。  そのね、私が澪を見つけた時に、澪はお布団で寝ていてね、それで……それでね、その……しちゃってたの」 「なななにをしちゃってたの、かな」  まさかというイヤな予感。 「そのね、その……お漏らし、しちゃってたの」  ぐわん、と頭の中で大きな鐘が鳴って、何か大切なものが崩れたような気がした。 「お、おもら、し」 「スパッツとかスカートとかお布団とか、もうびちょび」 「わーわー、わかった、わかったから、お姉ちゃん、もういいからっ」  恥ずかしさのあまり耳を塞いで目を瞑り、お姉ちゃんの声を遮る。  わたしは怖さのあまりお漏らししてしまったんだと、そのあまりの情けなさに顔から火が出るような思いだった。 「そ、それでね。  このままだったらよくないって思って、その、私がスパッツもパンツも脱がせて、お布団も代えてあげたの」 「その……脱がしてくれた、その、ナニは?」 「とりあえずそこの渡り廊下に干してあるよ、全部、お布団も、スパッツもスカートもパンツも」 「干してって……」 「よくなかった?」 「うう……そんなことないけど……あうぅ、お姉ちゃん、ごめんね」  トホホな気分というのは絶対こういう時のためにあるんだとわたしは理解した。一生理解したくない種類のものだったけれど。  その後、お姉ちゃんが干してくれてたスパッツとスカートとパンツを取ってきて──その間にもちょっとヘコむことがあったのだけれど──履き直してみたら、やっぱりまだ全然乾いてなくてとっても悲しかった。 「うう、きもちわるいよぅ」 「澪、ふぁいと、だよっ」 「しくしく、なんでわたしがこんな目に……」  そしてその後には、もっと悲惨なことが待っていた。  たとえば村人の幽霊さんたちに追い回されてた時にも、 『お漏らしの匂いがするぞ』 『お漏らしの匂いがするわい』 『若い女子の粗相の匂いじゃ』 『お漏らし巫女じゃ』 『お漏らし巫女じゃ』 『西洋腰巻きのお漏らし巫女じゃ』 『なに、西洋腰巻きじゃと』 『きっと学者様に誑かされたにちがいない』 『きっと学者様からもらったにちがいない』 『なんとふしだらな』 『ほんにふしだらな』 『ちなみに西洋では腰巻きのことをぱんつというそうじゃ』 『ぱんつ、とな』 『そのぱんつと、すぱっつにすかぁととかいう履物も全部、布団といっしょに干されてたそうじゃ』 『つまり今は、ぱんつはいてない』 『ぱんつはいてない』 『しかもその染みは、まさに大海のようじゃったそうな』 『わしの聞いたことのある、めりけんがやってくるという太平洋という海ぐらいに広いそうじゃ』 『なんと恥ずかしい』 『ほんに恥ずかしい』 『うまら恥ずかしい』 『お漏らし巫女を逃がすな』 『逃がしてしまったら、もしもわしらの村の巫女が、ふしだらきわまりないお漏らし巫女じゃなんて知られてしまったら』 『村の恥じゃ』 『村全体の恥じゃ』 『村全体の大恥じゃ』 『逃がすな』 『絶対捕まえろ』 『恥ずかしいお漏らし巫女を逃がしてはいかんのじゃぁ』  なんて言われて。  わたしは「どうしてそんなこと知ってるのよーっ!」「わたしはお漏らし巫女なんかじゃなーいっ」って叫びながら射影機のシャッターを押しまくって。  うう、なんて不幸。  お姉ちゃんが干してくれてたって言うパンツとかを取りに立花家と桐生家の渡り通路に行った時にも、また首の折れた女の幽霊さんが出てきて、射影機も持ってないのにどうしようって思ったら……ちょうどその横に干したままになってたお布団を見て、 『プ』 って、笑って消えていったの。  助かったのはいいけど、悲しいやら、情けないやら。  それに、縄の間で黒澤家のお父さんと戦って、その最後の時に拾った霊石をラジオで聞いてみたら。 『……ところでな、言いにくいんだがな。  お漏らしの癖、あれは早めに直さないといかんぞ。  このままだとお嫁にも行けんからな。  お前は小さい頃なかなか粗相の癖が直らなかったが、今になってまたその癖がぶり返すとは……わしゃ、母さんになんと言い訳すればいいのか。  とにかく、早くなんとかするんだぞ。わしからの最後の忠告だからな。  ……まったく、どうして、ブツブツ……』  もう、あんまりにも情けなくて情けなくて、どうしようもなかったわよ、あれは!  だいたい八重さん、あなたいったいいつまでおねしょしてたのよぉ。 (ちなみにその霊石は、その後すぐ床に叩きつけて割ってしまった)  その『お漏らし』の件だけでも恥ずかしいのに、その上こんな格好で、しかもノーパ○でなんて……祭壇前の通路の階段下に忌人さんが現れちゃった時なんて、もういったいどうすれバインダー状態だったのに……。         §  そんなこんなの迷シーンの数々。  思い出すだけでも恥ずかしくて、また泣きそうになる。 「へぇー」  そんなわたしの心を知ってか知らずか、とっても無責任なお姉ちゃんの声。  ううん、無責任というよりもこれは……。 「お姉ちゃん、なんだかニヤニヤしてる」 「そんなことないよ。  大変だったね、澪」  ピンときた。 「お姉ちゃん、でしょ」 「なにが?」 「わたしの干してあったスパッツとかパンツとか、取っていったの、やっぱりお姉ちゃんだったんでしょ。  村人さんたちに連れて行かれたと思ってたら、心配してたのに、実はどこかに隠れてて私が脱いだスキに全部取っていっちゃったんだ」  私はつかつかとお姉ちゃんの近くまで詰め寄る。 「私、やってない」 「しらばっくれないでよ!」 「ほんとだもん。  私、取ってないもん。  お姉ちゃんのこと信じてくれないなんて……お姉ちゃん悲しい。しくしく」 「うぅ……そうやってまたウソ泣きを」 「本当に私は取ってないのに。くすんくすん。  だって、取ってきてくれたのは……」  そう言って私の後ろを指さす。  振り返り、わたしは「ひっ」と短い悲鳴を上げてしまった。  ここに入ってきた鳥居の入り口の辺り、そこには信じられないことに、今さっき倒したはずの縄の男(仮名)さんが立っていたから。  ……立っていたけど。  その、  頭に被ってる『パンツ』は、いったいナニ?  そして手に持ってる『スパッツ』は?  あぁ! 鼻の前にあてて匂いなんて嗅いでるぅ!  やーめーてー!(涙目) 「そう、縄の男(仮名)さんでしたー」  泣いてるフリを止めたお姉ちゃんの、本当に楽しそうな声が響く。 「な、な、な……」 「ね、私じゃないでしょ。  私はただ『澪のパンツを取ってきたら、きっと面白いわよ』ってアドバイスしただけ。  それに、あと、その縄の男(仮名)さんに取ってくるように命令してくれたのはね」  すうっと、お姉ちゃんの横に白い着物の女の人の姿が現れる。  紅い染みのついた着物。  目をこらしてよく見る。  ……ま、まさか。 「はい、今、この村で一番えらい人。  私のソウル・シスター、双子の姉(妹)萌えのマイフェイバリット同志──黒澤紗重さんでーす。  ひゅーひゅー、ぱちぱちぱち」 『また逢えたわね、八重』  にっこり。  ナンデ?  瞬間、わたしの頭に紗重さんに捕まっていた時のことが白くフラッシュバックする。  あの時、わたしは、わたしは紗重さんに……紗重さんと……お姉ちゃん?  突然。  お姉ちゃんがいつものひょこひょこしたトロい動きがまったく嘘のような素早さでわたしに抱きついてくる。  同時に、手に持っていた射影機が紗重さんに奪われる。  そのまま身体の向きを変えられて、広くて平らな台座の石に押し倒された。 「いたっ」  ごちんと頭を打ってしまう。 「ご、ごめんなさい、澪。だいじょうぶ?」 「大丈夫、じゃないわよぅ、お姉ちゃぁん」  ちょっと涙目になる。  けど、ハッとして、今はそういう場合じゃないって思い直す。 「じゃなくて、この、このアレな体勢はいったいなんなんでしょう」 「さて、なんなんでしょう」 『さて、なんなんでしょう』 「って、紗重さんもいるしーっ!」  お姉ちゃんの身の毛もよだつような満面の笑みのすぐ横で、紗重さんもまったく同じ種類の笑顔を浮かべて、わたしの顔を覗き込んでいた。  お姉ちゃんの手が、私の顔を挟み込むように伸びてくる。  私の両手は、冷たい手──多分紗重さんの手──に押さえ込まれてて、まったく身動きとれない状態で。  お姉ちゃんの手が頬からゆっくりと滑り降りて、私の首筋に当てられる。  そしてわたしは、一つの可能性に気づいてしまった。 「……お、ねえ、ちゃん……」  ドクンドクンと、いきなりシリアスモードに入ったかのような、でもってシリアスを超えたどシリアスな恐ろしい予感に心臓が早鐘のように鳴り響く。  舌が乾く。 「……わたし……」  わたしは半分泣きそうな震える声で訊ねた。 「わたし……おねえちゃんに……、  お姉ちゃんに……殺されるの?」 「まさか」 『まさか』 「へ?」 「そんなひどいこと、澪にしないよ」 『そんなひどいこと、私にもお姉ちゃんにも、もうする必要はないもの』  じゃぁ一体わたしをどうするつもりなのか、どうやって『虚』を静めるつもりなのか──別に『虚』を静めるのに協力したいとはこれっぽっちも思ってないんだけど──わたしにはもう全然わからない。 『繭が教えてくれたの』 「ちょっと座敷牢とかいろいろと調べてたら、わかっちゃったの。  別の方法が」  そう言えばお姉ちゃんって、民俗学とか土着信仰とか魔術とか呪いとか占いとかムーとかエトセトラエトセトラに妙に凝ってたなぁ。少し前に論文をどこかの秘密結社にどーのこーのとかも言ってた気がするし、この間なんて恋の媚薬の実験台にされかかったり……なんてことをふと思い出す。 「そこのパンツかぶってるボンクラ民俗学者さんなんかには思いもつかなかった方法。ここの民俗信仰と秘儀の記録と、縁のある某秘密結社の方から教えていただいた西洋魔術と私のオリジナル魔術やらなんやら全てを集大成した、画期的かつ効率的かつ萌え萌えで背徳的で淫靡的な。  もっとずっとベターな、いいえ、ベストの儀式の方法よ」  そう言って私の耳に、生暖か〜い息を吹きかけた。  なんだか身に覚えのある気がする、生暖かい息。  ぞくりと、イヤな予感が身体を走る。 「お姉ちゃん……その新しい儀式ってわたしも関係するのかなぁ……。  しないよね、ね」  わたしのすがるような声に、お姉ちゃんはにこーっと笑みを返してくれた。邪悪な、まさに邪悪としか形容できないような笑みを。 「大丈夫。そのための前準備もちゃんと済ませてるから」 「ま、前準備って?」 「私と、澪と、紗重とで、ちゃんとしたじゃない。ア・レ・よ」  あぁ、知りたくない、聞きたくない。  思い出したくない。 「だって、澪も本当は気づいてたんでしょ」 『だって、八重も本当は気づいてたんでしょ』 「あの時、あの立花邸の座敷で、澪が紗重に襲われて気絶して」 『お漏らししちゃったのは、夢じゃないって。八重は、あいかわらず粗相しやすい身体なんだって』 「夢の中で私たち二人にえっちなことさんざんされて、気持ちよくって何度も何度もいっちゃって」 『そのあげくにお漏らししちゃったのは』 「本当は夢なんかじゃなくて」 『夢なんかじゃなくて本当にあったことだって』 「気づいてたんでしょ」 『気づいてたんでしょ』  わたしは二人のその喜々とした告白に、がっくりと力が抜ける。 「うぅ……やっぱり夢じゃなかったんだ。  お漏らしもなにもかも、全部お姉ちゃんたちのせいだったんだ……しくしく。  わたしの純潔をかえせぇ」  どこかの紅い着物を着た怖がりの女の子のような声で非難してみる。 「あら、まだ澪の『純潔』はちゃんと残ってるわよ。あの時にもそう言って安心させてあげたじゃない。本当に鳥頭さんね。  ……でも、これからすぐに、無くしちゃうけどね」   ニヤリ 「!」 「だから、ちゃんと責任とってあげる」 『だから、ちゃんと責任とってあげる』 「ずっと一緒にいて、責任とってあげるから」 『ずっと一緒にいて、責任とってあげるから』  周りにシャンシャンと錫杖を打ち鳴らす音が響き出す。 『ありがたや』 『ありがたや』 『おお、これぞまさにお漏らし巫女のれずぷれい』 『お漏らし巫女の、れずぷれい』 『れずぷれいの生本番が、新しい儀式がはじまるぞ』 『儀式がはじまるぞ』 『ありがたや』 『ありがたや』 『これで村も安泰じゃ』 『眼福眼福』 『まっこと、寿命の延びる思いがするわい』  眼だけで周りを見渡すと、いつのまにやら大量発生した宮司の皆さんたちが、錫杖フリフリ喜びの踊りを踊っていた。  あ、忌人さん達も混じってる。  パンツかぶったままの縄の男(仮名)さんも。 「ああぅ、みんなお姉ちゃんに言いくるめられてるぅ」 「お姉ちゃんのこと、見直した?」 「そういう問題じゃ」 「素直じゃないんだから……えい」 『素直じゃないんだから……えい』 「んーー!」  お姉ちゃんたちにキスされて。  瞬間。  無数の紅い蝶が、一斉にわたしたちの周りを舞い始め──。  ──そうして。  幻想的で、どこか滑稽で、おまけにバリバリ羞恥プレイな景色の中。  新しい形の『双子の儀式』が、わたしの上におりてきた。         §  さて。  双子の儀式が成功したかどうかは、最早余人の知る処では無い。 「ひーん、なんでこうなっちゃったのよー!」                                 ちゃんちゃん