『理由、約束、守りたいもの』 ※注1)以下の作品は実在の某『ナントカ仮面(仮名)』とは一切関係ありません。あるように見えるかもしれないのは、ただの錯覚です……多分。 ※注2)本作は劇中よりも多少の未来を扱っており、また、そのことによる幾つかのオリジナル設定・要素を取り入れております。ご了承下さい。 ※注3)本作には一部性的な描写が含まれますので、十八歳未満の方の閲覧は禁止させていただきます。 《前回までのあらすじ》―――――――――――――――――――――――――――  世界中の人達から夢を奪おうとする最強の敵・ワルンダー大王との戦いは、正義の敗北を持って一度その幕が引かれた。  酷い怪我を負い体中傷だらけになった成悟(せいご)は、妹、美衣子(みいこ)の前で倒れ伏してしまう。  少し前からその正体が兄であることに気付いていた彼女は、傷が化膿し熱を出して苦しむ兄の姿を見て決心する。もう二度と変身させない、兄を戦いの場所に行かせないことを。  月明かりだけが照らす部屋の中、ベッドに横たわった成悟の顔や腕に残る生々しい傷痕を、痛ましげに、愛おしげに舐める美衣子の姿。  そうして幾日か過ぎて、成悟は目を覚ます。  美衣子が自分の正体を知っていたことに驚き、ずっと看病してくれていたことに感謝するが、それは再び迎えるであろう戦いの前の、ささやかな幸せの時間、序曲にしかすぎなかった。  全ての夢が奪われ消え去るまでのタイムリミットはあと僅か。  怪我が完治するのを待たずに、今一度戦いの場へ赴こうとする成悟。  そして美衣子は……。 《共通部分 + 分岐A》―――――――――――――――――――――――――― 「お兄ちゃんっ!」  美衣子の悲しい叫び声に、僕は振り返る。  食事の用意で妹が席をはずしたその隙に、予備の変身セットが入ったリュックを手に、マントだけを羽織って窓から飛び立とうとして窓に寄った僕の背中に、妹の叫び声が突き刺さった。 「お兄ちゃん、まだ怪我も直ってないのに、どうしてよっ!」 「美衣子…」 「絶対に行かせないんだからっ」  そうして、僕が何かするよりも早く窓に掛かっていた手を掴んで離させ、何処にも行かせないという言葉を証明するかのように僕を必死に抱きしめた。  小さな嗚咽の声が漏れる。  妹は、泣いていた。  僕は、失敗したことを悟った。  だから、美衣子のいないうちに飛び立ちたかったのに…。  僕は、僕の胸の中にいる妹のことを思う。  僕を行かせまいとして必死になっている妹の姿を見て。以前は大して違いがなかったように思うのに、今、僕を行かせまいとして必死になって僕を捕らえている妹は、僕よりも頭一つ以上に小さい。  ――何時の間に、こんなに背に差がついちゃったんだろうな。  肩を震わせて泣く妹に、僕のために泣いてくれるたった一人の妹の姿に、限りない愛おしさが心の底から込み上げてくる。  下ろしていた両手を上げて、美衣子を優しく抱きしめる。 「…ごめん」 「……」 「……でも、僕は行かなくちゃならないんだ」 「ダメッ、そんなの許さないっ」  僕がその言葉を言い終えないうちに美衣子は叫んだ。 「うそだもん、お兄ちゃんがそんなカッコイイこと言えるはずないもん。  美衣子の知ってるお兄ちゃんは、弱虫で、情けなくて、いつもいつもボーっとしてる優しいだけが取り柄の、美衣子の知ってるお兄ちゃんは、いつもそうだったじゃない」  顔を上げた妹の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていく。 「かっこよくないお兄ちゃんでいてよ、美衣子だけのお兄ちゃんでいてよっ。  何処にも行かないでよおっ!」  僕は妹の瞳を見つめて、優しく諭す。 「僕は……僕は、みんなの笑顔を、夢を守りたい、助けを求める声があるなら助けてあげたい。それが良い人でも悪い人でも。僕にはその力があるんだから」 「そんなの、そんなことしても、誰も『お兄ちゃん』には感謝してくれないのに。誰も『お兄ちゃん』がどんなに痛い思いや辛い思いをしてるか知らないのに。  それでも、それでもなの? そんなのイヤだよぅ」  胸の中で頭を振っていやいやをする美衣子。  そんな妹の頭を撫でながら、僕はもう一度説得の言葉を繰り返す。僕の本当の気持ちを込めて。 「それに……今は美衣子がいてくれる。  美衣子が知っていてくれるなら、僕はそれでいいよ。それだけで、僕は変身できる。  僕が今一番に守りたいと思っているものは、僕の一番大切な人の夢だから――美衣子の夢だから」 「そんなの…そんな言いかた、ズルイよ…」 「ごめん。  でも、本当だよ」  僕と美衣子はそのまま互いに何も言わずに、ただ抱き合っていた。           §  しばらくして、ようやく泣き止んだ美衣子が、ぽつりと呟く。 「…約束、して」 「?」  泣き腫らした顔を上げて、美衣子は言う。 「帰ってきたら、お兄ちゃんが帰ってきたら……また遊園地に連れて行ってくれるって」  僕は力強く頷く。 「約束するよ」 「全部、お兄ちゃんのおごりだからね」 「イヤだ……とは言えないか。  わかった、全部僕がもつよ。可愛い妹のたってのお願いだしね」  苦笑する。  そうして、身体をゆっくりと離す。  美衣子の目は真っ赤で、まだ泣き笑いのような顔だったけれど、それでも、今は僕を笑顔で送り出そうとしてくれている。 「お兄ちゃん、じゃぁね、美衣子がお兄ちゃんが絶対に元気に帰ってこれるよう、おまじないをしてあげる」 「うん、じゃぁ、せっかくだからお願いしようかな」 「お兄ちゃん、あんまり信用してないでしょ」 「そんなことないよ、信用してる」 「ふ〜ん、まぁいいよ、おまじないが終わったら絶対に信用してるはずだから。  じゃ、ちょっとそこにしゃがんで」  言われたとおりに膝を落とす。  すると美衣子は僕の頭の上に手を置いて、何やら呪文のようなものを小さな声で唱えた。 「目を閉じて…」  目を閉じる。  すっと、美衣子が僕の前に、僕と同じ様にしゃがむのが分かった。  そうして――  ――唇に、柔らかな温もりを感じた。  目を開くと、美衣子の笑顔がある。  少し恥ずかしそうな、妹の笑顔。 「…お兄ちゃん。  今の、美衣子のファーストキスだよ」 「…うん」 「美衣子の大切にとっておいた宝物で掛けたおまじないだから、きっと大丈夫だよ。絶対に大丈夫だからね」 「ありがとう……美衣子」  そうして僕は、今度は僕から、妹の唇にキスをした。  これが僕の約束――僕の誓いのしるしだった。           § 「――しんッ!」  金色に輝くバックル、ベルトがぐるりと腰に装着され、スカイブルーのスーツが僕の身を包む。  力強く、しなやかに、伸ばした脚と腕にブーツと手袋がぴたっとはまる。  尻尾がぴょこんと引っ込む。  真紅のマスクは勇気溢れる心の証。  バッと閃かせたマントは、風を掴み空を翔るための翼。  高らかに、名乗りの声を響かせる。  恐れるものは、もう何も無い。 「いってくるよ、美衣子」  ふわりと、いつものように微塵も重さを感じさせずに身体が浮きあがる。 「うん。  ……信じてる、待ってるから、お兄ちゃん」  風をはらんだマントが緩やかに波打つ。  飛び行く先はただ一つ、ワルンダー大王が座す場所――遥かな高みに聳え立つワルンシュタイン城! (ナレーション)  こうして、戦いの第二幕は開かれた。  残された時間はあと僅かしかない。  人々の夢を守るため、愛する妹を二度と悲しませないため、行け、僕らの――!! 《共通部分 + 分岐B》―――――――――――――――――――――――――― 「お兄ちゃんっ!」  美衣子の悲しい叫び声に、僕は振り返る。  食事の用意で妹が席をはずしたその隙に、予備の変身セットが入ったリュックを手に、マントだけを羽織って窓から飛び立とうとして窓に寄った僕の背中に、妹の叫び声が突き刺さった。 「お兄ちゃん、まだ怪我も直ってないのに、どうしてよっ!」 「美衣子…」 「絶対に行かせないんだからっ」  そうして、僕が何かするよりも早く窓に掛かっていた手を掴んで離させ、何処にも行かせないという言葉を証明するかのように僕を必死に抱きしめた。  小さな嗚咽の声が漏れる。  妹は、泣いていた。  僕は、失敗したことを悟った。  だから、美衣子のいないうちに飛び立ちたかったのに…。  僕は、僕の胸の中にいる妹のことを思う。  僕を行かせまいとして必死になっている妹の姿を見て。以前は大して違いがなかったように思うのに、今、僕を行かせまいとして必死になって僕を捕らえている妹は、僕よりも頭一つ以上に小さい。  ――何時の間に、こんなに背に差がついちゃったんだろうな。  肩を震わせて泣く妹に、僕のために泣いてくれるたった一人の妹の姿に、限りない愛おしさが心の底から込み上げてくる。  下ろしていた両手を上げて、美衣子を優しく抱きしめる。 「…ごめん」 「……」 「……でも、僕は行かなくちゃならないんだ」 「ダメッ、そんなの許さないっ」  僕がその言葉を言い終えないうちに美衣子は叫んだ。 「うそだもん、お兄ちゃんがそんなカッコイイこと言えるはずないもん。  美衣子の知ってるお兄ちゃんは、弱虫で、情けなくて、いつもいつもボーっとしてる優しいだけが取り柄の、美衣子の知ってるお兄ちゃんは、いつもそうだったじゃない」  顔を上げた妹の瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていく。 「かっこよくないお兄ちゃんでいてよ、美衣子だけのお兄ちゃんでいてよっ。  何処にも行かないでよおっ!」  僕は妹の瞳を見つめて、優しく諭す。 「僕は……僕は、みんなの笑顔を、夢を守りたい、助けを求める声があるなら助けてあげたい。それが良い人でも悪い人でも。僕にはその力があるんだから」 「そんなの、そんなことしても、誰も『お兄ちゃん』には感謝してくれないのに。誰も『お兄ちゃん』がどんなに痛い思いや辛い思いをしてるか知らないのに。  それでも、それでもなの? そんなのイヤだよぅ」  胸の中で頭を振っていやいやをする美衣子。  そんな妹の頭を撫でながら、僕はもう一度説得の言葉を繰り返す。僕の本当の気持ちを込めて。 「それに……今は美衣子がいてくれる。  美衣子が知っていてくれるなら、僕はそれでいいよ。それだけで、僕は変身できる。  僕が今一番に守りたいと思っているものは、僕の一番大切な人の夢だから――美衣子の夢だから」 「そんなの…そんな言いかた、ズルイよ…」 「ごめん。  でも、本当だよ」  僕と美衣子はそのまま互いに何も言わずに、ただ抱き合っていた。           § 「いってくるよ、美衣子」  僕はゆっくりと妹から身体を離すと、くるりと背を向ける。  もう時間が無かった。 「やっぱり、だめっ!」 「美衣子っ」  今まさに扉を開いて部屋を出て行こうとした瞬間、突然後ろから背中に抱き着かれる。回された妹の両腕は、何があっても放さないというぐらいに再び強く僕を捕らえていた。  僕は搾り出すような声で言う。 「離すんだ……お願いだから」 「イヤ、行かせない、絶対に!  美衣子は、美衣子はお兄ちゃんが…」  突然鼻先に何かが押し当てられる。  強烈な甘い香り、なにも分からなくなるような、これはマタタビホルムの……。  ぐらりと視界が歪んだ。 「ごめんね、お兄ちゃん」 「み、い…こ……」      §  どれくらい時間が経ったろう。  両手足をベッドに固定された僕は、もう美衣子の為すがままで物理的に逆らうことは出来なかった。  美衣子は僕の身体中の傷を舐めて治そうとしていた。  ぺろぺろ、ぴちゃぴちゃと、妹の舌が湿った音を立てて僕の全てを舐め上げていく。それこそ、顔から始まって手や足の先まで。 「や、めろ、やめるんだ美衣子。  これ以上すると、本当に美衣子のこと、嫌いになっちゃうぞ」 「…いいもん、嫌われたって。  お兄ちゃんが死んじゃうかもしれないの、黙って見てるよりもずっといいもん」  美衣子は舌で丹念に舐めて吸ってしていた僕の乳首を、不意にキュっと噛んだ。 「ぅあっ」  痛みの中に、痺れるような快感を含んだ鋭い刺激が走り抜ける。 「本当はこんな形なんてイヤだけど、でも、仕方無いよね。こうでもしないとお兄ちゃん、絶対に美衣子の言うことなんて聞いてくれないから」  僕の胸に気持ちよさそうに頬ずりしていた美衣子は、ずずっと顔を僕のすぐ側まで持ってきてキスをする。もう何度目かわからない、深い深いディープキスを。  唇を離すと、二人の間に銀色の糸がかかる。  そうして美衣子は、唾液の糸が切れるのを見てからもう一度、今度はキスをするかしないかギリギリぐらいに唇を寄せる。生温かな吐息が唇を掠めていくのが感じられる。 「ちゃんと見ててね、お兄ちゃん――」  妹は、柔らかに微笑んで言った。 「――これから、お兄ちゃんと美衣子が一つになるところを。  美衣子の初めてを大好きなお兄ちゃんにあげるから、ちゃんと見ててね」 「!!」      § 「美衣子、ダメだ、やめるんだ、やめてくれぇ!」 「…ん…んぁあっ、痛ぁっ!!」 「美衣子おっ」 「ま、だだよ、お兄ちゃん、まだ、美衣子の中にちょっと入っただけだから。  でも、これから本当に、本当にお兄ちゃんと一つになるからね、美衣子の初めてをお兄ちゃんにあげるからね」      § 「いぁっ! ぁ……あ、あ、あ、い、いたぁ、あぁっ」 「ぅあ、あ、あ…」 「ふぅ、はひ、い、あ……だいじょうぶ、だいじょうぶだから、ちょっとイタイけど、大丈夫だから、お兄ちゃんは何も心配しなくていいから」      § 「お兄ちゃん、美衣子の中、気持ちいい?  ねぇお兄ちゃん、気持ちいいでしょう……」  もう、何もわからない。  目に見えるもの、感じるものは美衣子だけだった、美衣子が世界の全てだった。 「大好きだよ、お兄ちゃん―」  繰り返される言葉、ただ、それだけ。 「―だいすきだよ、だいすきだよ――」  ザーザーと感度の悪いラジオが垂れ流すような雑音の向こうで、壊れたレコードのように何度も何度も繰り返される。  その繰り返される声と同じ数だけ、僕は何度も何度も妹の中に吐き出し続ける。 「――だいすきだよ、おにいちゃん、だいすきだヨ――」  ドロドロとしたモノとドロドロとしたモノが合わさって、もっとドロドロが産まれ出る。ぬぷんぬぷんと音がして、びゅるんびゅるんと何かが飛び出て、そうしてドロドロが溢れ出す。  僕はただただ妹のために精液を吐き出し続ける、壊れたおもちゃにすぎなくなった。 「――だいスキだよ、おにいちゃんダイスキだヨ、ダイスキダ、よ――」  僕はただただ妹のために同じ言葉を発する、壊れたおもちゃにすぎなくなった。 「――だいスキだよ、ダイスキダヨ、ダイスキダヨ――ミ、イ、コ――」 (ナレーション)  こうして、世界中から夢は消え失せた。  けれど一人の少女は、その前に既に夢を叶えていた。  だからもう彼女は夢を見ない、見る必要もなかった――。