柏木千鶴、23歳。 |
作者:sugich |
あれは確か、休みに入る2週間ほど前のこと。
電話口から聞こえる初音ちゃんの「お兄ちゃん、来てくれる?」という控え目なお願いや、楓ちゃんの「耕一さん…………待ってます」という小さな期待の言葉。
続いて出てきた梓の「絶対来いよな。でないとオマエん家まで押し掛けて、首に縄つけてでも引きずってくぞォ」と言う脅し文句半分に苦笑しつつ、最後にもう一度受話器を取った千鶴さんの優しい声音。
「耕一さん。
あの、皆も待ってますし、それに…私……私も、待ってますから」
そんな彼女たちの声に逆らえるはずもなく、俺は0.12秒で冬休みの予定を決めていた。
この前帰京する時にしていた約束のこともあった。
ただ、結局はそんなことよりもなにより、
「此々は俺の大切な家族達の居る“家”なのだから」
そう言う自身の思いが強かったのは間違いない。
親父が命をかけて護ろうとした――そして今度は俺自身が護ることを誓った――四姉妹達の住むこの家。
幼かったころからのわだかまりも消え、愛する人が見せてくれる笑顔が心からのものだと信じられる……そんな幸せな時を過ごせるところ。
温かい家族が待ってくれている此々こそが、俺の還るべき場所なのだから。
……ただ、困ったことが一つ。
ありがたいことは有り難い事ではあるのだけれど、やっぱりありがた迷惑とゆ〜言葉も世の中にはあ………イヤ、そうじゃなくって、人間、得手不得手って言うモノがあるのは仕方ない事だと理解してはいるのは確かにそのとおりで、ただ、それはそうだと理解するのと、それが現実となって自分の上に災厄――あぁしまった、これも失言だ――となって降りかかってくるのを愛情という名のスパイスで味付けをし、諦めを持って(自分の胃と舌に)迎え入れるっていうのは、やっぱり分かってはいてもあまりにあまりであったりすると思うんだけれど………あぁ、俺、一体ナニ喋ってるんだか?
………とどのつまり。
千鶴さんが張り切って料理をしてくれるって事、
ただ、そ〜ゆ〜ことなんだけど、それが問題なんだよなぁ(とほほ)。
「………てへっ」
「『てへっ』、じゃな〜い!!」
「でも、このキノコ、とても綺麗な色してますし……それじゃダメですか、耕一さん……」