晴れた日はよく届くから…

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◆ 晴れた日はよく届くから… ◆
晴れた日はよく届くから…
作者:sugich 初出:コミックマーケット50「晴れた日はよく届くから…」 


だから電波なんだよ、“電波”。
どこかなんとかという元生徒会長は、そんな電気の粒みたいなものが流れたように感じる、この、ちょっと不思議な力のことを“毒電波”と呼んだよ。
それは、言葉どおり本当に“毒”だったんだ。
人の心に強引に繋げ、自分の思うがままを伝え、相手の思考力さえ押し流し狂気に導く。そんな、強い強い電波の力は、毒にしかならなかったんだ。
そして、その力でいろんな人を不幸にしたよ。
自分に近しい人や愛する人、そして、自分自身さえも。

……でもね、僕は知った。
強すぎて毒になるのは当然なんだ、本当は、それだけじゃない。
僕は感じたことがあるんだ、知っているんだ、もっと優しく温かい“電波”があることを。
優しく語り掛けてくれる電波。
寒くふるえた心を包み込んでくれるような電波。
人を赦し受け入れてくれる、ゆるやかで温かい、想いの力を。

……そして、みんな、気づいているかい?
人は、誰でも電波を使えるんだ、使っているんだよ。
たいていはとても弱く、遠い国のラジオのように聞こえにくい、意味不明な言葉で流されているものがほとんどだけどね……弱すぎて、ピリっとくることもないし。
でも、たまにうまくチャンネルが合ったりすると、わかるんだ。

   「誰かにそばにいてほしい。
    誰かのそばにいてあげたい。
    誰かに伝えたい、誰かにタスケテもらいたい。
    ……誰かを助けてあげたい」

僕は、
たった一人の女の子の声を、
声にならない声を聞いた時、はじめてそれがわかったんだ。
そして彼女が、僕の――僕自身でさえ気づかなかった――声にならない声に気づいてくれていたことを知った時、わかったんだ。
意識していても、たとえ無意識だったとしても。
人が人に何かを伝えたいと願うとき、人と人との間に流れ伝わるもの。
それが“電波”なんだから。

   見えるもの、見えないモノ。
   聞こえるもの、聞こえないモノ。
   触れるもの、触れられないモノ。
   伝わる思い、伝えられないオモイ。

見えないモノを見たい時は、目を閉じて。
聞こえないモノを聞きたい時は、じっと耳をすまして。
触れられないモノに触れたい時は、そっとポケットに手を戻して。
そして、晴れた日に少し高いところに上ってみよう。

遠く青く続くそらを眺め見やる時。
幽かな電波に乗った心が、伝い、伝わるかもしれない。

 「晴れた日はよく届くから……」

彼女は、そう言って微笑んだのだから。

作者:sugich 出典:「今日のおことば:1996/12/28版」に発表されたものを改稿 















上を向いて、歩いていこう 作者:sugich 初出:コミックマーケット50「晴れた日はよく届くから…」 

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