ちゃらっちゃー、ちゃちゃっ!
人造人間さおりん
郊外の造成地。日曜日なので作業が行なわれている気配はなく、乗り捨てられたブルトーザーが見える。
山肌が削られて土がむき出しになった斜面となっており、その上に廃棄された管理棟がある。そこへ瑞穂を先頭に祐介、沙織がやって来る。祐介はちょっとした斜面を上っただけで息が上がっている。
- 祐介
- (息絶え絶え)ちょ、ちょっと一休みしようよ瑞穂ちゃん。
- 瑞穂
- もう少しです、がんばってください(と云ってどんどん先に進んでゆく)。
- 祐介
- 瑞穂ちゃん、すごいなぁ。
- 沙織
- (独白)確かにおかしい。特に運動をしている体には見えないのに全然息が上がっていない。
- 祐介
- え?
- 瑞穂
- (上の方から)祐介さーん、早く早く。
- 祐介
- (嬉しそうに)はいはーい!
瑞穂の声に祐介は再び急いで上りはじめる。沙織はさらに不審そうな表情を深める。
祐介と沙織が管理棟にたどり着くと、瑞穂が待っていた。
- 瑞穂
- (急き立てられるように慌てて)早速お父さんにあってください。
- 祐介
- うん、わかった。
- 沙織
- (祐介を瑞穂から守るように、祐介と瑞穂の間に割ってはいる)
ちょっと待って。その前に確かめたいことがあるの。
あなたもしかして…とその時!セイトカイのアンドロイドウーマンが出現。口々に「ツキシマ!」「ツキシマ!」と奇声を発しながら、三人を取り囲む。
沙織は二人をかばうように戦闘員に立ち向かう。
- 沙織
- セイトカイのアンドロイドウーマン!
- 祐介
- どうして僕たちがここに来ることが分かったんだ?
沙織、瑞穂をにらむ。しかし瑞穂は震えて祐介にしがみつく。
- 瑞穂
- お父さんが!お父さんが!
- 祐介
- 大丈夫!お父さんはきっと無事だよ。
アンドロイドウーマン達に取り囲まれた三人の前に効果音とともにブラックかなが現れる。
- ブラックかな
- 私はセイトカイのブラックかな。さおりん!その小娘をこちらに渡してもらおうか!
- 祐介
- この子の父親をどうしたんだ!それに毒電波回路の設計図は!
- ブラックかな
- (予期せぬ言葉に驚いて)毒電波回路だと?(と、瑞穂をぎろりとにらむ)
- 瑞穂
- (おびえて)あの、あの、
- ブラックかな
- その言葉を聞いてしまったからには、生かしてかえす訳には行かん!覚悟しろ!
(アンドロイドウーマンたちに)かかれぃ!と、アンドロイドウーマン達が沙織たちに襲い掛かる。
- 沙織
- セイトカイのアンドロイド!勝手な真似はさせないわ!
チェィンジ!簡略化した変身シーンで、沙織はバレー部のユニフォームに身を固めたさおりんにチェンジ。 アンドロイドウーマン達をなぎ倒す。さおりんきっくやさおりんぱんちを受けたアンドロイドウーマンは壊れて歯車など壊れたパーツがカラカラ、と地面に転がる。
- さおりん
- (チェンジしたさおりんは、やや芝居がかった口調で話すこと)
ここは危ない。逃げるんだ!- 祐介
- さぁ、こっち!(と、木の陰に隠れる)
さおりんはすべてのアンドロードウーマンを倒す。残るはブラックかなだけだ!
- さおりん
- ブラックかな、おとなしく彼女の父親を開放しろ!
- ブラックかな
- そんな大きな口をたたけるのか?さーおりん!
と、「きゅーるるるる」と奇声を発してさおりんに襲い掛かるブラックかな。両の目が何かを受信するかのようにチカチカと点灯する。
- 祐介
- (後ろにいる瑞穂に)さおりんが居るからもう安心だよ。
しかし祐介は瑞穂の目もチカチカと点灯していることに気付いていなかった。
- さおりん
- (ジャンプして宙からキックを放とうとする)とう!
- ブラックかな
- きゅーるるるるっ!(とさおりんの攻撃をいともたやすく逃れる)
- さおりん
- (いったん腰を低く沈めてから回し蹴り)たぁ!
- ブラックかな
- きゅーるるるるっ!ムダだぁ!(と、逆にさおりんの足を払う)
- さおりん
- おかしい、私のすべての攻撃を読まれているようだ。
- ブラックかな
- そのとおり!お前がどんな攻撃をしてこようとも、私の分析回路は一瞬にしてお前の攻撃を読み切ることが出来るのだ!
- さおりん
- くっ!
- 祐介
- さおりんがあぶない!瑞穂ちゃん逃げよう!
- ナレーション
- なんとも情けない男である。
と、瑞穂の方を振り向いた祐介は瑞穂の目の中に「0101…」という文字列が浮かんでいることに(やっと)気付く。
- 祐介
- み、瑞穂ちゃん、君は!
- 瑞穂
- (自分の正体が気付かれて、慌てて混乱する)あ、あの、祐介さん、これは、 その、、、
- 祐介
- セイトカイのアンドロイドだったのか!何てことだ、僕はすっかりだまされてたのか!
- ナレーション
- 瑞穂、ことブラックみずぴーの戦況分析が、この混乱により一瞬途絶えた。そしてブラックみずぴーからの送信電波の空白がブラックかなに一瞬の隙を作った。
- さおりん
- とおっ!
さおりんの電撃パンチがブラックかなに炸裂。ブラックかなは奇声を発して苦悶する。重要な部品が破壊されたのだ。
- ブラックかな
- おのれぇー、さおりん。運の良い奴め。この次こそお前の命をもらうぞ!
煙幕を発し、ブラックかなは消え去る。
- ブラックみずぴー
- まってー、香奈子ちゃーん。
と、ブラックみずぴーもブラックかなの後を追って煙幕の中に消える。
祐介はさおりんに駆け寄る
- 祐介
- 沙織ちゃん!
- さおりん
- ブラックかなにブラックみずぴー、なんて恐ろしい敵なんだ…うっ、、
と、苦悶の表情で倒れそうになるところを祐介が支える。
「場面転換」
セイトカイの地下秘密基地。プロフェッサーツキシマの前にブラックかな、ブラックみずぴーがひざをついてかしこまっている。
ブラックみずぴーは恐怖で今にも泣き出してしまいそうな表情。
- プロフェッサーツキシマ
- (怒髪天をつく形相で)ばかものおっ!
後一歩のところまでにっくきさおりんめを追いつめたというものを…むざむざとその好期をのがすとは!
そして、われらセイトカイの最高機密である「毒電波回路」の存在を奴等に話してしまうとは! (くるり、ときびすを返し、不気味なに静かな声でつぶやく)
ブラックみずぴーを解体刑にしろ。- ナレーション
- ガイゼル総統がちょっと混じってしまった様だ。
アンドロイドウーマンたちがブラックみずぴーの両手をからめとり、処刑台の方に引っ立てようとする。ブラックみずぴーは子どものように泣き叫んで抵抗する。
プロフェッサーツキシマが手に持つ杖でブラックみずぴーに電撃を加えるとブラックみずぴーは身動きが取れなくなる。
- プロフェッサーツキシマ
- セイトカイには役に立たんアンドロイドなど要らんのだ。ましてや余計な感情が芽生えてしまったアンドロイドなどはな…
- ブラックみずぴー
- (絶え絶えに、弱々しい声で)香奈子ちゃん…(と、ブラックかなを見つめる)
- プロフェッサーツキシマ
- さっさとこの役立たずを処分しろ!お前たちもスクラップにされたいか!
それまで、プロフェッサーツキシマの前にひざをつき一言も発せず事の成り行きを見つめていたブラックかなが突然立ち上がる。
- ブラックかな
- お待ちください、プロフェッサーツキシマ。今ブラックみずぴーを処分してしまうのは得策ではありません。
- プロフェッサーツキシマ
- なんだと?貴様、仲間とやらを助けるため慈悲の心をかけようというのか?
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん…
- ブラックかな
- いえ、私の慈悲の心などありません。ましてブラックみずぴーが私の仲間だから助けて欲しい、などというつもりはありません。
- プロフェッサーツキシマ
- ほう、では何だというのだ。
- ブラックかな
- さおりんとの対決にはブラックみずぴーの分析回路が必要です。さおりんを単に破壊するだけなら私一人で充分ですが、ブラックみずぴーの分析回路を使って闘うことが出来ればさおりんを捕獲し、セイトカイに連れ戻すことが出来ます。
- プロフェッサーツキシマ
- (少し考え込むように)ふむ....
- ブラックかな
- もし、さおりんを捕獲せず破壊するだけで良いなら、どうぞブラックみずぴーを処分してください。
- プロフェッサーツキシマ
- 仲間に対する慈悲、ではないと云うのだな?
- ブラックかな
- はい。私はセイトカイの誇りある冷酷な戦闘用アンドロイドです。仲間であろうとも命令遂行のためには破壊いたします。
ブラックみずぴーはブラックかなの言葉を、悲しそうな表情で聞いていた。
- プロフェッサーツキシマ
- よかろう、その出来損ないにもう一度だけチャンスを与えよう。
ブラックかなはブラックみずぴーを抱えて退場。
一人残ったプロフェッサーツキシマは椅子に腰を下ろし、血走った目でぎろり、と虚空をにらむ。
- プロフェッサーツキシマ
- しかし、あの毒電波回路さえ出来れば、あのような出来損ないのアンドロイドなぞ…ふっふっふっふっふ。
「場面転換」
セイトカイ地下秘密基地の一室。
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん、助けてくれてありがとう。
- ブラックかな
- いつ、私がお前のことを助けたというんだ?
私はお前の能力を利用したい。それだけだ。- ブラックみずぴー
- ちがう、私知ってるもの。香奈子ちゃんは私のこと、、
- ブラックかな
- 知っているとも、お前は私の分析回路だ。それ以上でもそれ以下でもない。
(すっくと立ちあがり)すぐに作戦開始だ。長瀬祐介をどんな方法を使ってでも連れ去る。と、云ってブラックかなは立ち去る。一人ブラックみずぴーだけが取り残される。
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん、香奈子ちゃん……(涙が頬を伝う)
「場面転換」
長瀬祐介の家の一室。祐介が傷ついた沙織を抱きかかえて運んで来る。ソファに沙織を横たえると、その傍らに座る祐介。
- 祐介
- ごめん、沙織ちゃん。僕がブラックみずぴーなんかに騙されてしまったからこんなことに。
- 沙織
- いいの、祐クンが無事だったから。それだけでいいの(はにかむように)。
甘い雰囲気が漂う。沙織はキスを誘うように目を閉じる。戸惑う祐介は会話でその雰囲気をごまかそうとする。
- 祐介
- で、でも、ブラックみずぴーにはすっかり騙されちゃったね。沙織ちゃんと握手するのを嫌がるはずだよ。もし握手しちゃったら自分がアンドロイドだってばれちゃうわけだからね。まったく何が秘密兵器の毒電波回路だよ。
- 沙織
- もう!ごまかさないで!
- 祐介
- へ?何が?(どぎまぎ)
- 沙織
- (ふぅ、とため息)でも、あながち毒電波回路は嘘じゃないかもしれないわ。ブラックかなは私たちが毒電波回路の名前を知っている事に驚いていた様だったし。
- 祐介
- また、奴等に騙されてるだけかもしれないじゃないか。忘れようよ。
- 沙織
- そうね、じゃ、気を取り直してはじめから(と再び目をつぶり祐介を誘う)。
祐介が生唾を飲み込んで沙織に近づいたその瞬間!壁をぶち破ってブラックかなとブラックみずぴーが現れる
- 祐介
- わわわーっ!僕の家がぁ!
- ブラックかな
- きゅーるるるるっ!長瀬祐介!我々と一緒に来てもらおうか!貴様の叔父、長瀬博士の居所は何処だ!
- 祐介
- しるもんか!僕らだっておじさんを探しているんだ!それよりこの壁、弁償してくれるんだろうな!
- ブラックみずぴー
- 長瀬博士の居所を教えてくれたら手荒な真似はしません、祐介さん。
- 祐介
- (カッとして)ブラックみすぴー、もう君には騙されないぞ!おじさんの居所を知っていたとしても教えるもんか!
- ブラックかな
- きゅーるるる!ふざけたガキだ!(と、襲い掛かる)
- 沙織
- (敵の攻撃から祐介を守りながら)祐クンには指一本触れさせないわ!
しかし、ぼやぼやしている祐介はアンドロイドウーマンの一人に捕まり祐介は抱えられて連れ去られそうになる。
- 祐介
- わーっ!沙織ちゃん助けてー
- ナレーション
- さっきの戦闘ではさおりんを見捨てて逃げ出そうとしたのに、自分がピンチの時には助けを求めるとは、性根の腐った奴である。
- 沙織
- そんな事言ってる場合じゃないわ!
沙織はアンドロイドウーマンから祐介を救い出そうとするが、ブラックかなの発する煙幕のなか、祐介を見失う。
- 沙織
- 祐クン!(と、煙幕の中の人影に飛びつくが、それはブラックみずぴーだった
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん!助けて!
ブラックみずぴーが沙織に捕まったのを見たブラックかなは舌打ちする。しかし、戻ってブラックみずぴーを救わず、そのまま祐介を連れ逃げ去る。
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん!まって!見捨てないで〜
- 沙織
- 祐クン……
煙幕がおさまり、破壊された祐介の部屋に呆然と立ち尽くす沙織と、床にへたり込んで泣いているブラックみずぴーがいた。
- 沙織
- さぁ、ブラックみずぴー、あなたたちの基地に私を案内しなさい。私が祐クンを助け出すのに協力するのよ。
その言葉にブラックみずぴーはよろよろと立ち上がり沙織に立ち向かおうとする。
- 沙織
- 待って、あなたとは闘いたくない!
- ブラックみずぴー
- (沙織の言葉に驚く)何故?私はセイトカイのアンドロイドなのよ。それもあなたを騙して祐介さんを…
- 沙織
- 私には分かるの、あなたがとても優しい心を持っているって。
- ブラックみずぴー
- えっ?
- 沙織
- 悪いアンドロイドなら仲間のことを「香奈子ちゃん」なんて呼んだりしないわ。
堰きとめていた物が流れ出すように、ブラックみずぴーの目から涙があふれ床に突っ伏して泣き出した。
落ち着きを取り戻したブラックみずぴーは、沙織に身の上を語り出す。
- ブラックみずぴー
- わたしと香奈子ちゃんは、生まれた時からずっと仲良しだったんです。基本的な設計は同じだし、私が分析して香奈子ちゃんが実行する二体で一組のアンドロイドなんです。
でも、作戦を次々に成功させてどんどん出生してゆくうちに、香奈子ちゃんがどんどん私に冷たくなっていったんです。そして、そして…香奈子ちゃんがあたしのことただの道具だって...- 沙織
- ブラックみずぴー…
- ブラックみずぴー
- 私は香奈子ちゃんのこととっても好き。この気持ちは何なの?プロフェッサーは作られた命のアンドロイドには「好き」って気持ちが生まれないって云ったわ。じゃぁ、この気持ちはなんなの?さおりん、教えて!
アンドロイドと人間の心に違いはあるの?- 沙織
- (力強く)そんなものないわ!
(すっと目を伏せて、控えめに)いえ、、無いと信じてるわ。
あなたのその気持ちはプロフェッサーツキシマに作られた物なんかじゃない。あなたと香奈子ちゃんとが一緒に暮らしてきた時間が作ったものなのよ。
アンドロイドと人間の心に違いなんて無いわ。「好き」という気持ちに思いも軽いも無いもの…- ブラックみずぴー
- さおりん!(と、さおりんに抱き着き泣きじゃくる)
- 沙織
- (切なそうな表情になりつぶやく)祐クン…
その時、部屋中のラジオやテレビが突如として付き、ブラックかなからのメッセージが流れ出す
- ブラックかな
- 聞こえるか、さおりん。長瀬祐介の命が惜しければ今から一時間後、石切り場にブラックみずぴーと共に来い!
奴の命はブラックみずぴーと交換だ!用件を伝えるとテレビの電源は消える。
- ブラックみずぴー
- 罠よ!プロフェッサーツキシマがこんな命令を出すはずが無いわ!プロフェッサーは私なんてどうなってもいいはずなんだから。
大事な人質の祐介さんと私と交換しようだなんて、許すはずが無いわ。- 沙織
- もし、ブラックかなの勝手な行動だとしたら?あなたを私から取り戻すため、プロフェッサーツキシマに無断で私と取り引きをしようとしてるのかもしれない。
- ブラックみずぴー
- (戸惑うように)ありえないわ…今更香奈子ちゃんが私を…
- 沙織
- (そっとブラックみずぴーの肩に手を置いて)答えは直接本人に聞きましょう。
「場面転換」
石切り場。風に吹かれて砂埃が立ち込める。正面には急峻な岸壁が見える。崖の手前にブラックかなとアンドロイドウーマンたち。その後ろに磔台に戒められてた祐介の姿がみえる
- 祐介
- 離せよ!何回も云っただろ!おじさんの居所は僕にもわからないんだよ!こんな利用価値も無い僕を捕まえてたって、ちっともいい事なんか、、
- アンドロイドウーマンA
- 黙れ!(と手の棒で祐介の腹を一撃する)
- 祐介
- げぇ(黙り込む)
と、その時、何処とも知れずギターの音が聞こえて来る。
- アンドロイドウーマンたち
- どこだ、どこだ!
- ブラックかな
- (崖の上を指差し)あそこだ!
- 沙織
- (がけの上でポーズを決める。大声で)ブラックかな!約束通りやってきたわよ!
沙織はブラックみずぴーと一緒に崖の上からジャンプしてブラックかなの前に立つ。
- 沙織
- 祐クン!
- 祐介
- (情けない声で)沙織ちゃーん、助けてー。
祐介が無事なのを確認して、ほっとする沙織。そしてブラックかなをキッと睨み付ける。
- ブラックかな
- よく来たな、さおりん。
- 沙織
- 約束通り、祐クンを返してもらいに来たわ。
- ブラックかな
- では、ブラックみずぴーを渡してもらおう。
とブラックみずぴーを見る。ブラックみずぴーはブラックかなを見ると沙織の背中に隠れてしまう。
- 沙織
- それには条件があるわ。
- ブラックかな
- 条件?お前が条件など言える立場にあると思うのか?
- 沙織
- セイトカイに戻ったブラックみずぴーに危害を加えないこと、これがブラックみずぴーを渡す条件よ。
- ブラックかな
- 何ぃ?(とブラックみずぴーを見る)
そうか、貴様さおりんに何か吹き込まれたな?それまで沙織の背中で震えていたブラックみずぴーが、勇気を奮いたててブラックかなの前に出て語り掛ける。
- ブラックみずぴー
- 違うわ。私、沙織さんに何か言われたからここに来たんじゃない。
(ブラックかなをいとおしく見つめながら)香奈子ちゃんとまた一緒に仲良くしたいから、ここに来たの。- ブラックかな
(ブラックみずぴーの言葉の動揺する)
な、何を世迷言を、、、さおりん!勝負だ!もしお前が勝てば長瀬祐介もブラックみずぴーもお前の勝手にするがいい。だが、私が勝てば長瀬祐介の命もブラックみずぴーも私の物だ。
- 沙織
- (混乱しているブラックかなを醒めた目つきで見て)
かわいそうなアンドロイドね。瑞穂ちゃんの真心が分からないなんて。
(屹然と)いいわ、その勝負受けてたつわ。- ブラックかな
- よし、それでこそさおりんだ。
- 沙織
- でも、私はチェンジしない。その代わりあなたは瑞穂ちゃんの力を使わない、これで良いわね?
- ブラックかな
- きゅーるるるる、チェンジせずに私に勝てると思うのか!
じりじりと間合いを縮め、闘いはじめる。
戦闘力では圧倒的にブラックかなの方が上だが、ブラックみずぴーと沙織の言葉が気きに掛かり、戦闘に集中できない。
- 沙織(ブラックかなの記憶)
- かわいそうなアンドロイドね。
- ブラックみずぴー(ブラックかなの記憶)
- 香奈子ちゃんとまた一緒に仲良くしたいから。
- ブラックかな
- (独白)くそ、なんであんな言葉が気に掛かるんだ!
その一瞬の隙を突いて沙織はブラックかなに痛烈なキックを浴びせる。
- ブラックかな
- し、しまったぁ!
- 沙織
- チャンス!
しかし、沙織のチャンスを打ち消すように、プロフェッサーツキシマの毒電波が沙織に向かって発せられた。
- プロフェッサーツキシマ
- セイトカイに生まれしもの、セイトカイに返れ。
己の欲望のままに生きるがよい、さおりん。- ナレーション
- プロフェッサーツキシマの毒電波は、沙織の不完全なふきふき回路に影響を与え、沙織に精神的苦痛を与えるのだ。
頬を紅潮させ、目を潤ませながら磔にされている祐介に歩み寄ってゆく。
- 沙織
- ゆうくぅん、たすけて、、、
- 祐介
- 沙織ちゃん、ツキシマの毒電波なんかに負けちゃだめだ!我慢するんだ、沙織ちゃん!
しかし、沙織は祐介を戒めている鉄の鎖を引き千切ると、さらに祐介に迫る。
- 沙織
- ゆうくぅん、きもちわるいの、、、拭いて、、
- 祐介
- だ、だめだよ沙織ちゃん!毒電波の言いなりになったら!
逃げる祐介を沙織は追いつめてゆく。祐介は石切り用の掘削機の運転席に逃げ込む。
- 沙織
- 拭いて、お願い…
- 祐介
- お、お願い、って云ったって、その、、
- ナレーション
- 祐介が沙織の誘惑に屈しそうになったその瞬間、誤って祐介は掘削機のドリルのスイッチを押してしまった。ドリルが石を砕く轟音でツキシマの毒電波はカットされた!
沙織はさおりんにチェンジする!
- 沙織
- ちぇぃんじ!スイッチオン!ワン、ツー、スリーッ!
沙織の体内のあらゆる回路がモードチェンジし、沙織は人造人間さおりんとなった!
掘削機の上にたち、セイトカイのアンドロイド共を見据える。
- さおりん
- じゆぅのせんしっ!さおりん!
- ナレーション
- イナズマンFが混じっているようである
- さおりん
- 余計なこといわないのっ!せっかくカッコよく決めてるところなんだから!
よくも、毒電波を使って勝手なことをしてくれたな!しっかりお返しさせてもらうぞっ!さおりんは、アンドロイドウーマンを千切っては投げ、千切っては投げ。
形勢が逆転したブラックかなは、呆然と立ち尽くすブラックみずぴーに近づく。
- ブラックかな
- ブラックみずぴー!
- ブラックみずぴー
- (驚いて)香奈子ちゃん!
- ブラックかな
- 今二人で力を合わせてさおりんを倒せばプロフェッサーツキシマはきっとお前を許してくれる。さぁ、一緒に闘うぞ!
- ブラックみずぴー
- (悲しそうな表情で)……
- ブラックかな
- ブラックみずぴー!
- ブラックみずぴー
- 分かった、私香奈子ちゃんのために闘うわ。
ブラックみずぴーの目の中に0101の文字が浮かび、さおりんの戦闘を分析しはじめる。
- ブラックかな
- 頼んだぞ、ブラックみずぴー!
- ブラックみずぴー
- まかせて、香奈子ちゃん!
さおりんと対峙するブラックかな。ブラックみずぴーは岩陰に隠れて二人の戦いを分析しようとしている。
- さおりん
- 残るはお前だけだぞ!ブラックかな。
- ブラックかな
- きゅーるるるる!お前に私が倒せるかな!
闘いはじめる。さおりんはブラックかなの動きが先ほどと比べ物にならないほどよくなっていることに気付く。そして岩陰にブラックみずぴーの姿を見つける。
- さおりん
- (ブラックみずぴーに)そう、それがあなたの結論なのね。
- ブラックみずぴー
- 沙織さん…
- さおりん
- いいわ、自分の信じる道を進んで、瑞穂ちゃん。
- ブラックかな
- ええいっ!何をごちゃごちゃと!
(ブラックみずぴーを睨み付けて)お前はちゃんと分析してさえいればいいんだ!ブラックかなの言葉にブラックみずぴーの回路はショート、分析が不可能になる
- ブラックかな
- ブラックみずぴーっ!!貴様ぁっ!
- さおりん
- 自分を愛してくれている仲間の心を踏みにじるなんて許せない!
デーンジ、じゃない、
ひーのーたまー、すぱーいくっ!!!- ブラックかな
- きゅーるるるるるるるるるるるる!
さおりんの必殺技、火の玉スパイクを受けてブラックかなは大破する。
身動きの取れなくなったブラックかなにさおりんは歩み寄る。
- さおりん
- とどめよ。
とどめの火の玉スパイクを浴びせようとするさおりん。しかしその時ブラックみずぴーが駆け寄って、二人の間に割って入る。
- ブラックみずぴー
- お願い!香奈子ちゃんを殺さないで!
- さおりん
- どうして……こいつはあなたの心なんて理解することが出来ない殺人アンドロイドなのよ。生かしておいたら、またツキシマの手先になってどんな悪事の先棒を担ぐことになるか。
- ブラックみずぴー
- (壊れたブラックかなに抱きつき、涙を流しながら)
それでも、どんな酷いアンドロイドでも、私の香奈子ちゃんなんです!ブラックみずぴーの言葉にさおりんは声が出なかった。
ブラックみずぴーの涙を頬に受けながら、ブラックかなは呆然としていた。
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん、香奈子ちゃん、
- ブラックかな
- (思い出したかのように、ぽつぽつと)ミズホ…
- ブラックみずぴー
- 香奈子ちゃん!私が分かるの!?
- ブラックかな
- ミズホ、ゴメン、、
- ブラックみずぴー
- (ブラックかなをきゅうっと抱きしめながら)香奈子ちゃん……
- ブラックかな
- ミズホ、ゴメン、ミズホ、ゴメン、、
「戦闘後」
- さおりん
- なんとか、セイトカイの追跡を逃れて、幸せに暮らせるところを探して。そしてツキシマに示して。アンドロイドでも愛し合うことが出来るんだってことを。
- ブラックみずぴー
- ありがとうございます。このご恩は絶対忘れません。
アンドロイドの心も、人間の心の違いはないって云うあなたの言葉を胸にこれから生きてゆきます。- 祐介
- 二人ともがんばってね。
- ブラックみずぴー
- はいっ!
(さおりんの方をむいて)あなたもがんばってくださいね。- さおりん
- えっ??(真っ赤になるさおりん)
- 祐介
- ??なにをさ?
ブラックみずぴーはブラックかなの肩をやさしく抱きかかえながら新天地を求めて荒野へと歩き出してゆく。
- 祐介
- 幸せになれるといいね。
- さおりん
- 絶対なれるわ、あの二人なら。
さおりんと祐介は瑞穂と香奈子の背中をずっと眺め続けていた。
しかし、その時突如としてあたりは暗くなり、地獄から響いて来るかのようなプロフェッサーツキシマの声が聞こえてきた。
- プロフェッサーツキシマ(声だけ)
- 馬鹿め!裏切り者をそのままに許しておくと思うか!
プロフェッサーツキシマの声とともに毒電波が瑞穂と香奈子に襲い掛かった。
- プロフェッサーツキシマ(声だけ)
- 心を持つアンドロイドなぞ、この世に必要ではないのだ!
さんざん毒電波にいたぶられ、二体のアンドロイドはついに爆発してしまう。
プロフェッサーツキシマの哄笑のなか、さおりんは絶叫して瑞穂と香奈子の所へと駆けていった
- さおりん
- 瑞穂ちゃん!香奈子さん!
そこにあったのは無残に粉々になったアンドロイドの残骸だった。
しかしプロフェッサーツキシマに最後まで抵抗するかのように、固く結ばれた二人の手の部品だけが、粉々にならずに残っていた。さおりんは、最後の最後、ほんの数十分しか幸せになることが出来なかった友達に涙を流した。
- さおりん
- なぜだ!
何故だ!ツキシマ!
アンドロイドが愛する心をもって何がいけないんだ!夕日に向かって絶叫するさおりんに、祐介はかける言葉を持たなかった。
〜 エンディング 〜
戦え!! 人造人間さおりん(うた:新城沙織、コロムビアゆりかもめ会)
♪ ぶるまのさおり〜 ぼくらのなかま
へいわをまもって きょうもゆく
どんなてきでも へいちゃらさ
ひのたまアタック ぶちかませ
セイトカイロボット やっつけろ〜 ♪
「次回予告」
祐介の前に瑠璃子と名乗る謎の少女が現れた。彼女は自分を長瀬博士によって作られたアンドロイドで沙織の妹だという。
しかし、彼女こそ恐るべき毒電波回路を体内に秘めたセイトカイの戦闘用サイボーグ、るりるりだったのだ!
次回「沙織の妹、強敵るりるり」にご期待ください!