さおりんこと新城沙織は、ふきふき回路を心に持つアンドロイドである。
祐介「君はやっぱり本当はただのみだらなセックスロボットなんだ! 」 著:Yu.N、挿絵/オープニング/エンディング作詞:sugich |
〜 オープニング 〜
ゴーゴー・さおりん(うた:新城沙織、コロムビアゆりかもめ会)
♪ スゥィッチ〜オン ワン ツー スリー
でんりゅうひばなが あたまをはしるぅ
さおりん チェィンジ あかブルマ〜
セイトカイロボット むかえうて
じんぞうにんげん さおりん〜
チェインジ チェインジ
ごぅごごぅごぅ ごごっごー!! ♪
ちゃかちゃかかーん ちゃっちゃっ
第39話 痴女沙織、全校指名手配
じゃーん
煙り立ち込める体育館。壊れた照明器具があたりに散乱している。鉄の棒がひしゃげて、バレーのネットが垂れ下がる向こうにるりるりの姿。手前に、アズサムラサキとの戦闘で疲れ、肩で息をしているさおりん。
- ナレーション(岡部政明)
- 強敵アズサムラサキを倒したのもつかの間、さおりんの前にさらなる強敵るりるりが立ちふさがる。アズサムラサキとの闘いで消耗したさおりんに勝ち目は少ない。どうする、われらのさおりん。
- るりるり(月島瑠璃子)
- (じりっとにじりより)どうしたの、さおりん。気後れでもした?
- さおりん(新城沙織)
- くっ!(よわよわしく拳を構える)
- るりるり
- (ふぃ、と横を向き)あなたとの勝負、飛び道具は使いたくない、、、(きっ、とさおりんをにらんで)でも、逃げるなら撃つ。
- さおりん
- (独白)るりるり、、、月島瑠璃子さん。祐クンが心を寄せている相手。だめだわ、あたしはこの人と闘う事は出来ない。祐クンが好きな人を傷付けるなんて!
さおりん、足からホバージェットを吹かせて飛び去ろうとする。
るりるり、すっと腰を沈めるとスカート下からるりるりショットを抜き出し、腰の位置から宙を飛ぶさおりんを狙い撃ち。肩を撃たれ、床に落ちるさおりん。肩の傷痕から火花が飛び散る。
- さおりん
- ううっ、、、
- るりるり
- このるりるりショットを甘く見ないでって、云ったはずよさおりん。
- さおりん
- (独白)逃げるために闘うほか無いなんて!(と、決意の表情)
たぁっ!さおりん、ジャンプ一閃。空中で一回転し、るりるりをボディーシザースで床に組み伏せ、馬乗りになってタコ殴り。
るりるり、るりるりショットの長銃身でさおりんの横面を殴る。バランスを崩すさおりんの下から転がり出し、逃げる。
- るりるり
- (るりるりショットを持った手の甲で口元をぬぐいながら)ようやくやる気になった様ね。それでこそさおりん。
じゃぁ、こちらも手加減無しで行くわ。るりるりショットをスカート下のホルスターにしまうと、ジャンプ一閃。迎え撃とうとさおりんもジャンプ。見透かしたように、宙でさおりんの首をレッグシザースするるりるり。
- るりるり
- ギロチン落とし……
レッグシザースしたさおりんをひねるようにして投げ捨てる。壁に叩き付けられるさおりん。木製の壁は大破し、壁の向こうにまで吹っ飛んでゆくさおりん。
- さおりん
- (苦痛にうめきながら)もう、こうなったらどうとでも!
闇雲にるりるりに胴タックルするさおりん。組み伏せられる、るりるり。
- さおりん
- むにゅ?
るりるりの胸をわしづかみしている事に気が付くさおりん、慌てて手を離す。
- るりるり
- くっ!(上に乗っているさおりんを振るい落とす)
るりるり、苦しそうに胸を抱える。弱々しく立ち上がるが、膝ががくがくと震えており、心なしか頬が紅潮している。
- るりるり
- (苦しげに)さおりん…なんてことするの…
- さおりん
- (赤くなって)あ、あの、わざとじゃないからねっ!
- るりるり
- 今日の勝負は預けておくわ。覚えておいて、あなたを倒すのはこの私だって事を…
るりるり、飛び去る。残されたさおりん、急な展開に戸惑う。
- さおりん
- 助かった?
でもるりるりの今の反応、、、(はっと目を見開く)もしかして彼女もふきふき回路を持っているの?!
「場面転換」
造成地と思われる、市街地から離れたセイトカイ秘密実験場。高台にハツネグレイ、赤地雷カエデ、白骨チヅルが控える。
セイトカイの地下基地では、その様子をモニタテレビで見ているプロフェッサーツキシマ。
- 白骨チヅル(柏木千鶴)
- (モニタの中から、プロフェッサーツキシマに向かって)プロフェッサーツキシマ、ではこれからハツネ・マッドサイクルの実験を行ないます。
黙してこくりとうなずくプロフェッサーツキシマ。白骨チズルの号令で、セイトカイのアンドロイドウーマンがハツネグレイの回りにある機械を調整し出す。OKのサインを出すアンドロイドウーマン。
- 白骨チヅル
- (造成地に響き渡る大声で)囚人を連れ出せ!
崖下の秘密の出入り口が開くと、アンドロイドウーマンに引っ立てられて十数人ばかりの囚人達が出てくる。
- 囚人A
- 何処へ連れて行こうって云うんだ!
- 囚人B
- 頼む、妻や子供たちのところへ帰してくれ!
- アンドロイドウーマンA
- 黙れ!(手に持った長刀の柄で囚人を殴る)
囚人たちは、白線で書かれた丸の中に立たされる。崖上の白骨チヅルのサインを見て、アンドロイドウーマンたちは特殊な形をしたヘッドホンを装着する。ざわめく囚人。
囚人たちを見て、おどおどとするハツネグレイ。困ったような表情のハツネグレイを見て、赤地雷カエデはハツネグレイの肩をぽんと叩いて勇気づけようとする。
- 白骨チヅル
- (手をぱっと振りかざし)実験開始!
ハツネグレイ、あきらめの表情で目をつぶり不可思議な曲をスキャットで歌い出す。回りの機械がぴりぴりと小刻みに振動し出す。
と、崖下にいる囚人達は耳を手で押さえて苦しみ出す。目が血走り、よだれをだらしなくたらしながら、のた打ち回る。やがて、獣の様な表情になりお互い歯をむき出しに、殺し合いを始める。凄惨な殺し合いの末、最後に生き残った囚人がばたりと地面に倒れる。
- 白骨チヅル
- (モニタに向かって)実験は成功です。
ハツネグレイの体内にある共振機により増幅されたマッドサイクルによって人間どもは理性を失い、全員殺人衝動に駆られた獣と化します。- プロフェッサーツキシマ
- (ぼそぼそと聞きにくい声で)よろしい。では第二段階実験である、全校気○い作戦は長瀬祐介の通う学園で行なえ。あの学園を阿鼻叫喚地獄と化し、長瀬祐介めとさおりんをあの世へ送るのだ。
(凄みを利かせた低い声で)よいか、ハツネグレイ。失敗はゆるさんぞ。ハツネグレイ、ぶるぶると震えて立ちすくす。
- 白骨チヅル
- (慌てて)ハツネグレイ!返事をなさい。
(モニタに最敬礼し)我々がサポートし、全校気○い作戦の成功に万全を期します。ご安心ください。プロフェッサーツキシマ、眠そうに目を細め、ふいとモニタから消える。
白骨チヅル、ほっと肩で一息。ふっとハツネグレイを振り向くと、パンと平手打ちする。へたり込むハツネグレイ。
- 白骨チズル
- (声を荒げて)分かっているの!この作戦は、アズサグレイの敵討ちなのよ!それなのに、そのふ抜けた態度は何!そんな事では、にっくきさおりんを倒す事なんておぼつかないわ!
- ハツネグレイ(柏木初音)
- (ぶたれた頬を手で押さえながら)わかってる。(目に涙を浮かべて)アズサお姉ちゃんを殺したさおりんは絶対に許さない。(きっ、と目を見開き)私がかならずさおりんを倒す。
- 赤地雷カエデ(柏木楓)
- ……………(傍らで涙)
- 白骨チヅル
- (毅然と)さぁ、闘いよ!
白骨チヅルの声にすっくと立ち上がるハツネグレイ。柏木シスターズのアオリのショットでカット終わり。
「場面転換」
祐介たちの学園。校門入り口には制作中の学園祭で使われる門がおいてあり、学園祭の準備中である事を示している。心なしか学園の雰囲気を祭りの近さを感じさせる様に。
校舎内。廊下には段ボールやベニヤ材で作られたデコレーションが雑多においてある。学園祭についてせわしなくおしゃべりする女生徒達。
そんな生徒達の合間を縫って、沙織はせわしなくきょろきょろとあたりを見回しながら歩いている。
と、廊下の向こうから祐介登場。暗い表情で足取りも重い。
- 沙織
- (祐介に気付いて)あっ、祐クン!
祐介、沙織に気が付くと、はっと青ざめ、逃げ出す。
- 沙織
- 祐クン!待って!
祐介、階段を駆け登り、屋上へ。後を追う沙織。
屋上へ出る祐介。後が無い。屋上の最奥へと逃げる。手すりを背に、おびえるように手を顔の前にかざしてへたり込む。
おびえる祐介を不審がって、沙織は祐介の手前10メートルほどで立ち止まる。
- 沙織
- (心配そうに)祐クン、一体どうしたの?
昨日は学校に来てなかったし、、、心配してたのよ。- 祐介
- (うつむきながら、吐き出すように)沙織ちゃん、、、君が僕にどんなことをしようとしたのか、分かっているの?
- 沙織
- (小首を傾げて)あたしが?
- 祐介
- プロフェッサーツキシマの毒電波笛に操られてたから、忘れたなんて云わせないよ!
あの時、君が僕にしようとした破廉恥なことを!沙織、祐介の激しい感情にショックを受け、プロフェッサーツキシマの毒電波笛に操られて祐介を強姦しようとした事を思い出す。
フラッシュバック
- 沙織
- はぁぁん、たくましいわぁ、祐クンの(くすくすと笑う)
- 沙織
- (こ惑的に)祐クンも気持ちよくなりたいんでしょ?
- 沙織
- あぁっ!(頭を抱えてへたりこむ)
- 祐介
- (すっくと立ち上がる)思い出したようだね。
あの時、僕はあんなに一生懸命にやめてくれって云ったのに、、、君は僕の気持ちなんて無視して、自分だけみだら快楽にひたろうとしてたっ!
あの時、もし瑠璃子さんが現われなかったら、、、(唇をかむ)- 沙織
- (絞り出すような声で)でも、、、あの時はプロフェッサーツキシマの毒電波笛であやつられていたのよ!分かって、祐クン!あれはホントのあたしじゃないのよ!
- 祐介
- (突き放すように)違うよ、あれがホントの君の姿だよ。君がそう云ってたじゃないか!
- 沙織
- (涙を流す)違うわ!アレはあたしなんかじゃない!ホントのあたしは、今祐クンの前にいるこのあたしよ!
- 祐介
- (沙織の言葉など意に関せずの風情で)……沙織ちゃん、、、君はあんなことをすれば、僕が君のモノになるとでも思ったの?
- 沙織
- (呆然と)ゆ、祐クン、、、
- 祐介
- あんなことで、ただ体をつなげるだけで僕のココロが君のモノになるとでも思ったの?
- 沙織
- (子供のように、いやいやとかぶりを振って)違うわ、違うわ!
(うつむき、つぶやくように)あたしはただ、祐クンが離れていってしまうのが恐かっただけなの、、、だから!- 祐介
- (さげすむような目)ほら、認めた。
君はやっぱり本当はただのみだらなセックスロボットなんだ!- 沙織
- (目を大きく見開いて)、、、ひどい、、ひどいわ、祐クン。そんな事云うなんて、、、
- 祐介
- (くるり、と振り向き沙織に背を向ける)あの時、もし瑠璃子さんが来なかったら。いや、もし瑠璃子さんがプロフェッサーツキシマの毒電波笛を止めなかったら、僕は、僕は瑠璃子さんの目の前で、君にっ、、、
沙織ショックを受けて、一歩、二歩と後ずさり。
- 祐介
- (投げ捨てるような口調で)もう、君の顔なんて見たくない。僕の前にはもう絶対現われないで(足早に沙織の横を通り過ぎる)。
- 沙織
- で、でも祐クン!あなたはセイトカイに狙われているのよ!いつセイトカイのアンドロイドが襲ってくるか、、
- 祐介
- 僕には瑠璃子さんがいるんだ。僕のナイト気取りな君は、もういらないんだよ。
走り去る祐介。屋上のタイルに突っ伏して泣きむせぶ沙織。
- 沙織
- 祐クン、祐クン、、、あたしは、あたしはこれから何を目的に闘ってゆけばいいの?
保健室。学園の静かな一室。そこにハツネグレイ、赤地雷カエデ、白骨チヅルが人間に身をやつして潜んでいる。ハツネグレイと赤地雷カエデは制服を着ており、学生に化けている。白骨チヅルは白衣を着ており、保健室の看護教師として潜入している事を示す。
- 初音(=ハツネグレイ)
- 結構簡単に潜入できちゃったね、お姉ちゃん。
- 千鶴(=白骨チヅル)
- (残酷な笑み)ふふっ。本当に看護教師として赴任するはずだった女は今頃海の底よ。
すべてはアズサの敵を討つため。- 楓(=赤地雷カエデ)
- …(こくり、とうなづく)
- 千鶴
- アズサの残してくれた種は今、芽吹いているわ。さおりんの覚醒したふきふき回路によって、長瀬祐介は精神的ダメージを受けた。その為、二人の間には今大きな亀裂が入っている。二人が自ら分断してしまっている今こそ、易々とさおりんを片づける事が出来るわ。
- 初音
- チヅルお姉ちゃん、どうしてあの二人はケンカしちゃってるの?ふきふき回路ってそんな力があるの?
- 千鶴
- (やさしい表情で)ハツネにはまだ、難しいお話かしらね?
- 楓
- ……………(赤くなってうつむく)
- 千鶴
- では、改めて作戦を確認するわ。ハツネ、あなたはさおりんに接近して。今、さおりんは誰からも疎遠にされてしまっている状態。さおりんのココロに付け入るのは簡単だわ。
カエデはハツネの作戦をバックアップする事。- 初音
- チズルお姉ちゃんは?
- 千鶴
- わたしは、るりるりをマークするわ。あいつは私たちの作戦を絶対邪魔するでしょうから。
と、その時からりと保健室入り口の扉が開き、女生徒二人が入ってくる。
- 女生徒A
- せんせぇ、ちょっと気分が悪いんですけど。
- 千鶴
- (慌てることなく、にっこりと微笑んで女生徒の方をふりむく)気分が悪いの?仮病でも使って、授業をフケようとしてるんじゃないの?
- 女生徒B
- そんなことないよぉ
すっと立ち上がり、女生徒をベッドに座らせる千鶴。初音、楓の方を向くとやさしく微笑む。
- 千鶴
- 初音さん、楓さん、あなたたちは別に悪いところはないようだから教室にお戻りなさい。宿題を忘れちゃだめよ。
- 初音
- (ぴょこんと立ち上がって)は、はい。
- 楓
- ………(あわててどぎまぎしている初音を落着かせようと手を引く)
保健室から出てゆく二人。意味ありげな笑みを浮かべるチヅル。
「場面転換」
沙織を探して学校中を走り回る初音。教室前で、男子生徒に質問する初音。
- 男子生徒
- え?新城?あいつ昨日から授業サボってるんだよ。何処行っちまったんだろうな。
- 初音
- そ、そうですか。
- 男子生徒
- ところで、お前新城に何の用なんだ?
- 初音
- い、いえ、ただのファンです。あはははっ(と、正面を向いたまま後ろへと掛け去ってゆく)
体育館。爆発騒ぎで使えなくなってコートの修繕をしているバレー部員たちに質問する初音。
- 女子バレー部員
- 新城さん?あの人ったら、この忙しい時に部活サボっているのよ!もう、練習も出来ないで大変だって云うのに。あなたも新城さん見つけたらひっ捕まえてきて!
- 初音
- (苦笑いしながら)は、はい、わかりました。あはははっ。
屋上へと階段を駆け上がってゆく初音。がちゃり、と屋上へ出る扉を開ける。
屋上には誰もいない。
- 初音
- ここでもないか、、、
校庭をとぼとぼと歩く初音。気が付くと体育館裏手の人気の無い空き地へと出る。
- 初音
- あれ?こんなところに空き地があったんだ。
その空き地の奥の方に、膝を抱えて座り込んでいる沙織がいる。
- 初音
- (独白)あいつがさおりん、、、アズサお姉ちゃんを殺した敵、、、(目に暗い炎が燃える表情で)
ハツネが小枝を踏みしめ、ポキリという音を立てる。はっとする初音と沙織。
- 沙織
- (ぱっと明るい表情になって)祐クン?
- 初音
- あ、あの、、、
- 沙織
- (失望の表情)あ、あなたは?
- 初音
- (ぎこちない笑顔を浮かべて)バ、バレー部のエースアタッカーの新城先輩ですよね!
わ、わたし新城先輩の大ファンです!
(生徒手帳を取り出して)さ、サインをしてくださいっ!沙織、ぽけっとした表情で初音を見上げる。面倒くさそうに生徒手帳を受け取り、サインする。
- 初音
- 新城先輩って、とってもカッコいいです!スパイクを決める時のりりしい表情がとっても素敵です。
- 沙織
- 、、、祐クンはあたしの試合なんて一度も見てくれなかった、、、
- 初音
- 祐クンって、、、恋人さんですか?
- 沙織
- 、、、、
- 初音
- ひどい人ですね!新城先輩のステキな姿を見に来てあげないなんて。
わ、わたし自慢じゃないけど新城先輩がレギュラーで出ている試合は全部見ているんですよ!インターハイの県予選決勝の時なんて、新城先輩絶好調で、スパイク決定率なんて90%以上でした!- 沙織
- そ、そう、だったかな?
- 初音
- はいっ!(演技が身に入って目をキラキラさせる)
- 沙織
- (寂しそうにつぶやく)祐クンは、、、来てくれなかったけどいつも遠くで応援してくれてるって云ってた。だからあたしがんばれた。バレーの時も、闘いの時も。
- 初音
- (はっとして)闘い?
- 沙織
- でも、でも、もうだめ、、、祐クンが、祐クンがいないんじゃ闘えないよぉ、、、(うつむいた顔から涙がぽとり、と地面に落ち染みを作る)
- 初音
- し、新城、先輩、、、(沙織の肩に手を掛ける)
沙織、初音に抱きつく。
- 初音
- あっ、あの新城先輩
- 沙織
- お願い、、しばらくこのままでいさせて。
沙織、我も無くむせび泣く。呆然と沙織を抱いている初音。知らず知らずと、泣いている沙織の頭を軽くなでる。
- 初音
- (独白)これがさおりん?セイトカイの理想をことごとく潰してきた悪魔の姿がこれなの?これがアズサお姉ちゃんを殺した敵?
わかんないよ、チヅルお姉ちゃん、、、私にはこの人がただの寂しそうな女の子にしか見えない、、
「場面転換」
音楽室。合唱部が学園祭に向けて練習をしている。 学園祭で披露する予定の合唱曲「流浪の民」を練習している。その中に混じっている初音。ふ、と入り口のドア窓に目をやると、窓際に立って練習風景を見つめている沙織が見える。心なしか微笑んでいる沙織。
- 女性教師
- (ピアノ鍵盤の蓋を閉じながら)今日の練習はこれまで。皆さん、だんだんとよくなってきていますよ。学園祭当日までにきちんと仕上げてゆきましょうね。
- 一同
- はいっ
わらわら、と談笑しながら音楽室から出てゆく合唱部員。初音はドアの方へと駆けてゆく。飛びつくように、沙織の手を取る初音。
- 初音
- (明るい笑顔)新城先輩、いらしてくださったんですね!
- 沙織
- (はにかむように)う、うん。(頭を掻きながら)あたし、音楽とかってよく分かんないけど、今の曲はとってもよかったよ。
- 初音
- ありがとうございます!今私たちが練習している曲は「流浪の民」って云うんですよ。今度の学園祭での私たち合唱部のコンサートで歌う曲なんです。
- 沙織
- 流浪の、民?
- 初音
- はい。故郷をなくしてしまった人たちのことを歌った曲なんです。
- 沙織
- (独白)故郷か、、あたしには故郷って何処なんだろう(空を見上げる)。
- 初音
- (沙織の物思いを打ち破る明るい声)新城先輩、一緒に帰りましょう!
元気な初音に、先ほどの物思いをふっと忘れて思わず微笑んでしまう沙織。
廊下を玄関の方へと歩いてゆく二人。上目遣いにちらちらと沙織を見上げる初音。
- 沙織
- 不思議な感じね。初音ちゃんと知り合ってまだ一週間くらいしか経ってないのに、とてもそんな気がしない、、、
あたしに妹がいたら、こんなだったろうな、ってそんな気さえしてくるわ。- 初音
- (明るく)わぁ!ほんとですかぁ!嬉しいです!
明るくはしゃぐ初音。しかし暗い影が初音の表情に落ちる。
- 初音
- (独白)こいつがさおりん。アズサお姉ちゃんを殺した憎い敵、、、
、、、でも、こうしてみると普通の女の子にしか見えない、、、
(かぶりを振って)何を馬鹿なことを!
孤立しているさおりんにつけいって、地獄への水先案内をするのが私の使命じゃない!忘れちゃだめよ、ハツネ!急に黙り込んだ初音を不審がる沙織。黙々と歩き進んでゆく初音の肩に手を置いて歩みを止める沙織。
- 沙織
- どうしたの?初音ちゃん?
- 初音
- (やっと我に帰る)え、ええっ?何ですか?(あせって、わたわたする)
(独白)もしかして、ばれちゃったの?と、その時、廊下の向こうから女子生徒の悲鳴が聞こえる。
- 初音
- (沙織の気を逸らそうとわざとらしく)な、何?
- 沙織
- 初音ちゃん、ここで待っていて。あたし、見てくるわ。
沙織、悲鳴の方へと駆け出してゆく。
廊下を駆ける沙織。と、沙織めがけておびえた女生徒が駆け寄ってくる。沙織の胸に飛び込んでくる女生徒。アップのショットで女生徒が楓と分かる。
- 沙織
- ど、どうしたの?
- 楓
- (息を切らせ、恐怖に震えた声で)む、向こうの方に、大きな銃を持った黒いセーラー服の人が現われて、
- 沙織
- 何ですって?!
(独白)るりるりだわ。でも、一体何のために学校で騒ぎを、、、
(今にも崩れ落ちそうな楓の体を、両肩を手で支えながら)大丈夫よ。落着いて。と、沙織が掛けてきた方向から初音駆けてきながら登場。
- 初音
- (息を切らせながら)し、新城せんぱ〜い。大丈夫ですか?
- 沙織
- (初音に楓の手を取らせて)初音ちゃん、この人を連れて学校から逃げて!
- 初音
- あ、あの、先輩は?
- 沙織
- (毅然とした表情で)あたしは大丈夫!さ、早く逃げて!
と云うや否や駆け出す沙織。
その沙織の後ろ姿を見てニヤリと不気味な笑いを浮かべる楓。制服の内ポケットから、ごついリモコンを取り出し、ボタンを押す。突如、沙織の頭上の天井が爆発する。
- 沙織
- きゃああああああああっ!
がれきが降り注ぎ、煙がもうもうと立ち込め、沙織の姿は見えなくなる。
生徒達の驚き、恐怖の叫びが響き渡る。
- 初音 (呆然とした表情で)し、新城先輩、、、
呆然とつぶやく初音のバストショットにアイキャッチが重なって、コマーシャルに入る
ちゃらっちゃー、ちゃちゃっ!
人造人間さおりん
〜コマーシャル〜
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