さおりんこと新城沙織は、ふきふき回路を心に持つアンドロイドである。
祐介「これが毒電波砲か、、」 著:Yu.N、挿絵/オープニング/エンディング作詞:sugich |
〜 オープニング 〜
ゴーゴー・さおりん(うた:新城沙織、コロムビアゆりかもめ会)
♪ スゥィッチ〜オン ワン ツー スリー
でんりゅうひばなが あたまをはしるぅ
さおりん チェィンジ あかブルマ〜
セイトカイロボット むかえうて
じんぞうにんげん さおりん〜
チェインジ チェインジ
ごぅごごぅごぅ ごごっごー!! ♪
ちゃかちゃかかーん ちゃっちゃっ
最終話 沙織の最後かセイトカイ全滅か?!
じゃーん
物音一つせぬ静寂な暗闇の中、一人たたずむ白骨チヅル。足元から照らされるほのかな光で姿が浮き立って見える。
- 白骨チヅル
- (消え入りそうなかすかな声で)アヅサ、カエデ、ハツネ…
白骨チヅルが名前を呼ぶと、ぼうっとアズサムサラキ、赤地雷カエデ、ハツネグレイの幻影が現れる。皆、楽しそうに笑っている。ぼうっと映る幻影がはっきりとして、そこから白骨チヅルの回想シーンが始まる。
造成地のがけを駆け降りてくる4人。息も絶え絶えに必死で走っている。
- 白骨チヅル
- 伏せて!
白骨チヅルの声が終わらぬうちに爆音。爆煙が収まると、泥塗れになっている4人が現れる。
- 白骨チヅル
- (おっとりと)ああ、よかった。
- アズサムラサキ
- (こぶしをわなわなと震わせながら)
ああ、よかった、じゃないよ、チヅル姉!もうちょっと遅れたらあたしたちまで爆発に巻き込まれちゃうところだったじゃない!- 白骨チヅル
- (困った表情で)でも、、
白骨チヅル、ヒールを脱いでアズサムラサキに見せる。口元に手を当て、小首を傾げながら。
- 白骨チヅル
- (舌をぺろりと見せて)ヒールが折れちゃったから
- アズサムラサキ
- だぁーっ!
- ハツネグレイ
- (苦笑いを浮かべながらもアズサムラサキの怒りを納めようととりなす)で、でも作戦は無事成功したよ。
- 赤地雷カエデ
- (淡々とした口調で)これでしばらく都市部の住民は水不足に悩まされることでしょう。
- ハツネグレイ
- プロフェッサーツキシマもきっと誉めてくれるよ。それでいいじゃない。ね、アズサお姉ちゃん。
- アズサムラサキ
- (くるりと背を向けて)まったく!チヅル姉はいつもどこかヌケてるんだよ。
(ちらり、と白骨チヅルを振り向く)。- ナレーション
- 言い過ぎた、と思って優しい言葉を掛けようとするが、不器用なアズサムラサキにはそれが出来ない。ついついきつい言葉となってしまうのだ。
- アズサムラサキ
- (びくっとする。耳まで真っ赤に染めて)う、うるさいわね!
- 白骨チヅル
- わかっているわ、アズサ(と、やさしく微笑む)。
画面がぼやっとゆらぎ、別なシーンへと移る。別の回想シーンに移ったことがきちんとわかるように演出されたい。
セイトカイ秘密基地内と思われる一室。天井をパイプが縦横無尽に走っており、雫がぽたぽたと床に落ちる。灯かりも無く暗いがロボットたちには関係が無い。
4体のロボットが部屋中央にある机に身を寄せるようにして集まっている。机の上のランプがほのかな、暖かい灯かりを照らし出している。
- 白骨チヅル
- また、セイトカイの作戦がさおりんに邪魔されたそうね。
- アズサムラサキ
- 他の低脳ロボットじゃ、さおりんは倒せないさ。さおりんはこのあたし、アズサムラサキが倒す!そして、名をあげてセイトカイの大幹部に、、
- ハツネグレイ
- (ためらいがちに口を開く)さおりんってセイトカイから脱走した後、学校に通ってるんだって。
他の3人、はっとしてハツネグレイを振り向く。ハツネグレイ、ひざに視線を向けたままためらいがちに、しかしはっきりと語りつづける。
- ハツネグレイ
- 普通の高校生みたいに、勉強したり、スポーツしたり。
- 白骨チヅル
- (突然の言葉に慌てるチヅル)お、おやめなさい、ハツネ。
- ハツネグレイ
- (悲しそうに)ハツネも普通のオンナノコみたいに学校に行ってみたいな…
- 白骨チヅル
- ハツネ!
パン!と乾いた音がする。身を乗り出してハツネグレイに平手打ちしたのは赤地雷カエデだった。
- ハツネグレイ
- (打たれた頬を手で押さえながら。何がおきたのか分からない、といった表情で)か、カエデお姉ちゃん、、、
- 赤地雷カエデ
- ハツネはあんな裏切り者の事をうらやましいと思っているの?裏切り者のくせに自分だけ良い思いしているのは卑怯なことです。
さおりんが感受している幸福など、セイトカイが建設する真の理想世界にあっては、ちり芥にも等しい程度のものです。
(ハツネグレイの傍らにひざを付いて)私たちはその理想世界の建設に邁進するだけで良いの。- アズサムラサキ
- (みずからの悩みを振り払うように大声で)そのとおりよ!あたしたちロボットには人間みたいな幸せとか恋なんか必要ないのよ!
だっと駆け出すアズサムラサキ。涙がちらり、と見える。
- 白骨チヅル
- アズサ!
画面が再びぼやっとゆらぎ、別の回想シーンへと移る。
町を見下ろす高台。夕日に照らし出された工事中の造成地が眼前に広がり、その向こうに町が見える。
白骨チヅルと赤地雷カエデの二体の姿が見える。心なしか寂しげなシルエット。
- 白骨チヅル
- とうとう、私たち二人だけになってしまったわね。
- 赤地雷カエデ
- …
- 白骨チヅル
- セイトカイの目指す真の理想世界建設のためだけに存在する私たち、、、愛や友情や絆なんてものは必要が無いはず、、、でも、、、
- 赤地雷カエデ
- チヅル姉さん…
- 白骨チヅル
- (風に白骨チヅルの長い髪が吹かれる)アズサ、、ハツネ、、、
急に鳴咽をもらす赤地雷カエデ。感情表現の乏しい赤地雷カエデの涙にうろたえる白骨チヅル。
- 白骨チヅル
- か、カエデ、、、
- 赤地雷カエデ
- (泣きじゃくりながら)ごめんなさい、ごめんなさい。
悲しいのはチヅル姉さんだって同じってことはわかってます。でも、でも、今はこうさせてください。白骨チヅルの胸に抱きついて泣きじゃくる赤地雷カエデ。そんな赤地雷カエデ優しく抱き、頭をなでる白骨チヅル。
- 赤地雷カエデ
- アズサ姉さんとハツネの仇は私が取ります。必ず。
- 白骨チヅル
- カエデ、、、、
画面が再びぼやっとゆらぎ、冒頭の白骨チヅルのカットに戻る。周囲の暗闇がすっと消えると、あたりに炎が燃え立っている。これまで見えていた暗闇は白骨チヅルの心の闇であったことをしめす。
白骨チヅルの目から赤い涙が流れている。おそらく何かのトラブルで内部潤滑油があふれてしまったのだろうが、あたかも血の涙のように見える。
- 白骨チヅル
- (炎で顔が赤く照らし出される。熱風に髪が生き物のようになびく)
許さない。私からすべてを奪い去ったあなたたちの事は決して許さない。すっと手を水平に伸ばすと、前方めがけ爪先から曳光弾を発射する。轟音とともに崩れ落ちる天井。
- 白骨チヅル
- さおりん、るりるり。おまえたちの部品は一片たりともこの地上には残さない!
引きつったようなおそろしげな笑みを浮かべる白骨チヅル。そのバストショットでこのシーン終わり。
「場面転換」
先週のラスト近辺から。炎の中に呆然と立ちつくしている祐介。ゆらゆらとゆれる炎を凝視する。
- 祐介
- お、俺は一体、、、
燃え立つ建材が祐介めがけて倒れてくるが、そこへ瑠璃子が飛び込んでくる。祐介を抱きすくめごろごろ、と安全な方へ転がって行く。抱き合ったまま床に倒れる二人。
- 瑠璃子
- (炎で制服や髪の毛の一部が燃えている。が、祐介には至福の笑みを浮かべる)だ、大丈夫?長瀬ちゃん。
- 祐介
- (呆然と瑠璃子を見つめながら)る、瑠璃子…
- 瑠璃子
- (はっきりとわかる驚きの表情)な、長瀬ちゃん、、、、思い出してくれたの?
- 祐介
- (呆然とした表情で)取り戻した。俺は全てを。
(瑠璃子に微笑みかける)やっとお前の事を思い出した、瑠璃子。- 瑠璃子
- (がばっと祐介に抱き着く)長瀬ちゃん!
瑠璃子、涙を流して祐介を抱きしめつづける。感極まって、むさぼるように祐介に口付けする。口付けされるがままになっていた祐介も、途中からみずから瑠璃子の唇を求める。祐介は、炎でこげた瑠璃子の髪を優しくなでる。
- 祐介
- こんなにまでなっても、俺の事を。
- 瑠璃子
- (瞳が涙で潤む)私は長瀬ちゃんの事をずっと待っていた。暗闇の中で、見ることも聞くこともしゃべることも許されない牢獄の中で。
底も知れないほどの孤独に耐えることが出来たのは、こうやってもう一度長瀬ちゃんに会うため。本当の長瀬ちゃんに。- 祐介
- だから、人の姿を捨ててまで、俺に会いに来てくれたというのか、瑠璃子。
- 瑠璃子
- 私気付いていた。あなたが、あなたの種の中でどんどんと大きくなっていることに。そしてあなたの描いた設計図が、兄さんによって現実のものになろうとしていたことを。
- 祐介
- 俺も気付いていた。だから俺も目覚めねばならなかった。だが、俺は、、(ドン、と床を叩く)お前がそこにいるというのに、気付いてやることが出来なかった。(吐き捨てるように)この俺の自我の上に張りついた薄っぺらな「長瀬祐介」によってな。
- 瑠璃子
- (祐介の頭を優しく抱きかかえる。祐介は瑠璃子の胸に顔を埋める)でも、それもすべて済んでしまったこと。こうして私とあなたは、形を変えて再び会うことが出来た。
- 祐介
- 人であることを捨てたとは云え、お前はお前だ。(瑠璃子の胸をさする)このぬくもりはあの日のお前を思い出させる。
瑠璃子、すくっと立ち上がると、こげた制服を脱ぎ始める。一糸まとわぬ姿を惜しげも無く祐介にさらす。
- 瑠璃子
- 私は変わってない。それを感じて、長瀬ちゃん。
- 祐介
- (荒々しく瑠璃子を抱きしめる)瑠璃子!
崩れ落ちるように、床に伏す二人。
情熱的に互いを求める二人。炎に裸体が赤く照らし出される。 祐介、後背位に瑠璃子を抱きすくめると、激しく腰を瑠璃子に打ちつける。荒い息。
- 瑠璃子
- あ、あ、感じる!長瀬ちゃんの電波をたくさん、たくさん感じるぅっ!
瑠璃子と祐介の周りにきらきらと輝く粒が集まってくる。瑠璃子が絶頂に達したとき、その粒のきらめきが最高潮に達する。
「場面転換」
紅蓮の炎地獄と化したセイトカイ秘密地下基地。逃げ惑うアンドロイドウーマンたち。アンドロイドウーマンたちは祐介とすれ違うが、気にも留めない。
沙織は祐介を探し、炎の中を走り回っている。
- 沙織
- (涙目で)祐クーン!どこなの、返事して!
フラッシュバック。崩れ落ちる梁の下敷きになりそうになる祐介のシーン。
- 沙織
- (独白)後から探しても、あそこに祐クンはいなかった。きっとどこかに逃れているはず。(大声で)祐クーン!
- 長瀬博士
- (声だけ)さ、沙織くん。
沙織、はっと振り向く。と、そこに崩れ落ちた壁の下敷きになっている長瀬博士を見つける。
- 沙織
- (駆け寄りながら)博士!
(長瀬博士の傍らにひざを付いて、博士の容体をうかがう)大丈夫ですか、博士。- 長瀬博士
- (絶え絶えの声)沙織くん、た、たすけてくれ、、
- 沙織
- 待ってください。あなたが創ってくれた沙織が、今お助けします。
沙織、長瀬博士の上にある建材を渾身の力でのけようとする。が、間接部がぎくしゃくし、力を十分に出すことが出来ない。
- ナレーション
- 赤地雷カエデの攻撃によりバラバラになった沙織の体は長瀬博士とるりるりによって修理された。が、その修理は不完全で沙織は自分の力を100%出し切ることが出来ないのだ。
- 沙織
- (あぶら汗を流しながら)そ、そんな事はないっ!
どう、っと建材を投げ捨てる沙織。だが、体にかかる負担も大きくひざから崩れ落ちてしまう。
- 沙織
- (苦悶の表情)くっ。は、博士大丈夫ですか(沙織、長瀬博士の元へと這って行く)。
- 長瀬博士
- 沙織くん(がくり、と気を失う)
- 沙織
- 博士!
沙織、ふらふらとしながらも懸命に長瀬博士を担ぎ出し、安全な部屋へと連れて行き、博士を床に寝かせる。制服の上着を脱ぐと、丸めて長瀬博士の枕にする。沙織はブラウス姿。長瀬博士の傍らに両膝をついて座る。
- 沙織
- (長瀬博士の頬を軽く叩きながら)博士、博士、しっかりしてください!
- 長瀬博士
- (弱々しく声を出す)う、うーん。
- 沙織
- よ、よかった!(嬉し涙)
- 長瀬博士
- ど、どうして私のためにこんなに、、、私の事など放ったままでもよかったのだ、、
- 沙織
- 何をおっしゃるんです、博士!あなたはあたしの生みの親です。(はにかむように)博士の事は、お父さんと思っています。
- 長瀬博士
- (顔を両手で覆う)私は、私は君からそんな風に思われるほどの男ではない。今のこの惨状、そしてセイトカイの野望。これらすべての原因は私にあるのだ、、、
沙織、長瀬博士の言葉に身を固める。じりっとにじり寄る。
- 沙織
- (沙織、両膝の上においたこぶしをぐっと握りしめる)あたし、もうわからないことばかり。るりるりは祐クンを返せ、だなんて云うし。博士までそんな事云われては、あたし何を信じて闘えばいいのか分からない!
- 長瀬博士
- 沙織くん、、、
- 沙織
- 話してください!博士の知っている全てを!毒電波って何なのか、るりるりが何をしようとしているのかを!
長瀬博士、ぐっと答えに窮する。が、決心をしてうむ、とうなずく。
- 長瀬博士
- 分かった。全てを語ろう。セイトカイが、私たちが何をしようとしていたのかを、、、
(遠い目)すべてはあの日、毒電波発見の日から始まったのだ。
「回想シーン」
ここから長瀬博士の回想シーン。ナレーションを長瀬博士が行う。時折、沙織のレスポンスが入るがすべて音声のみ。
過去のシーンであることを示すため、セピア色の画面にすること。
古びた実験室。手前にはフラスコやガラス器具が見え、化学の実験室と思われるが、部屋の奥のほうには怪しげな測定機械も見え、何の実験室なのか一瞥しただけでは分からない。その実験室の中央ほどに、若きプロフェッサーツキシマである月島博士が一心不乱に何事か計算をしている。
どたどた、と足音。あらあらしく扉を開けて入ってきたのは、長瀬源一郎、若き長瀬博士である。
- 源一郎
- 月島くん、来てくれたまえ!ついに捕らえたようだぞ!
- 月島
- 本当かね!源一郎博士。
- 源一郎
- ああ、源二郎の予測したとおりだ。
あわただしく実験室から出て、廊下を走って行く二人。
- 長瀬博士(声だけ)
- あの当時我々は、私と弟の源二郎そしてツキシマは、人間生体エネルギーの根元を発見しようとしていた。
- 沙織(声だけ)
- 源二郎さんって祐クンのお父さん…
- 長瀬博士(声だけ)
- 生物として強靭でない人間がどうして万物の霊長たり得たのか。特異に発達した知能のおかげでといわれている。
が、我々はそれだけでは不十分であると考えていた。人間を人間足らしめている強力なエネルギー、それの支えがあるからこそ知能を発達させ、文明社会を気付くことが出来た。それが我々の仮説だった。
だが、そのようなプロパーでない研究に大学も企業も金を出してくれるはずもなく、当時われわれはツキシマ個人の資産に頼って研究を行っていた。月島博士と源一郎、建屋の奥にある測定室に入る。暗く閉め切られた部屋の中央に怪しげな光を放つ測定機器があり、その前に張り付くように源二郎が座っている。
- 源一郎
- 源二郎!どうだ?
- 源二郎
- (疲れから頬がこけているが、らんらんと輝く瞳に喜悦の表情が見える)やったよ兄さん、月島さん。
(手前オシロスコープを指差す)見ててご覧、月島さんの方程式の解どおりの周期振動が見られるよ。自然界でいままで検知されることが無かった、新しい種類のエネルギー反応、生体電波だよ。- 月島
- (オシロ管面の光に照らされ、顔が不気味に映える)やった、ついにやったな!
- 源一郎
- ああ。
がしっと手を握り合う月島博士と源一郎。だが、一人源二郎は浮かぬ顔。
- 源二郎
- でも、弱すぎる、、、。生体電波を有効に活用するためにはもっともっと大ききくないと。
- 源一郎
- だが、だからこそ誰にも発見されず、われわれがその栄光をつかむことが出来たのだ。
- 月島
- そのとおりだ。この強度を如何にあげるかについては、これからの研究だよ。
- 長瀬博士(声だけ)
- ついに長年の我々の努力が報われた。我々は得意の絶頂にあった。
(声のトーンが落ちる)だが、学会は誰も我々の成功を認めてくれなかった。これまでの常識を外れた新発見を、学会は黙殺しようとしたのだ。
- 源一郎
- (酔っ払って月島の部屋に入ってくる)おい!月島くん!
- 月島
- 酔ってますね、源一郎博士。
- 源一郎
- 酔わずにおれるかい!君もいつまでのそんな物にかかずらわるのはやめちまえ。
源一郎、月島の書いている論文原稿を取り上げ、引き裂く。
月島、怒りも見せず怪しげな微笑みを見せる。
- 月島
- 確かにそうですね。これからは、我々だけのために研究しましょう。
- 源一郎
- (ろれつが回らない)なんだって?
- 月島
- 生体電波で、我々を黙殺した連中を見返してやるんですよ。
(下から青いライティング)生体電波さえあえば、世界を我々の手に収めることすら出来る。
- 長瀬博士(声だけ)
- 月島は絶頂から奈落への転落で正気を失っていたのだ。その時から、悪夢は始まった。生体電波を使い、世界を手中に入れるという野望が。
実験室に白衣の女性が現れる。
- 長瀬博士(声だけ)
- 黒々とした狂気に包まれていた我々の部屋へ、闇をはらすような女性が現れた。月島の妹、瑠璃子さんだった。
- 沙織
- 瑠璃子ですって?!
- 長瀬博士(声だけ)
- 兄の研究を手伝うため、大学を中退して我々の元へとやってきたのだ。それほど兄思いな瑠璃子さんに我々は神々しいものを見ていた。
触ったら壊れてしまいそうな、まるで人形のような瑠璃子さんに、私は、そして源二郎は引かれていった。
そんなある日、運命のときが訪れた。実験室にこもって生体電波受信実験をしている源二郎。
- 源二郎
- (機械をどん、と叩く)くそっ、どうしてだめなんだ!あの時ははっきりと確認できたのに!
- 瑠璃子
- (部屋の中を覗き込む)根を詰めすぎちゃだめだよ。
- 源二郎
- (苛ついて)じゃましないでくれ!
(その時、オシロ上に現れた強い信号に驚く)こ、これは!- 瑠璃子
- (口元を軽くほころませる)うまくいった?長瀬ちゃん。
大きく目を見開く源二郎。
- 長瀬博士
- その後も断続的に強い生体電波を検出することがあった。しかし、それが偶然なのか原因があるのか、我々は判断できなかった。
その時、私に悪魔のような仮説が浮かんだ。源二郎が強い生体電波を受信するときには必ず傍らに瑠璃子さんがいる。もしや、瑠璃子さんが生体電波の媒体になっているのではないか、と。夜。廊下を歩いている源二郎。いつも使わぬ部屋から明かりが漏れてくるのに気付く。
- 源二郎
- 誰が使っているんだ、こんな古い部屋。
源二郎が覗き込むと、そこには所狭しと機械が詰め込まれており、部屋中央にはガラスカプセルに全裸で閉じ込められた瑠璃子がいた。
- 源二郎
- (慌てて部屋に飛び込む)な、何をしているんだ!
慌てる源二郎に冷たい視線を投げかける源一郎と月島。
- 源一郎
- 見ての通りだ。お前だって気付いていたんだろう?瑠璃子さんが生体電波を媒介しているのではないか、と。いや、瑠璃子さんが人並みはずれた生体電波を持っているに違いない、と。
- 源二郎
- だからといって、こんな酷いことをして良いわけが無い!
源二郎、ガラスカプセルに走りよる。が、電撃を受けて吹き飛ばされる。月島が防御装置を使ったのだ。
- 月島
- おいたをしてもらっては困るな、源二郎くん。
- 瑠璃子
- 止めて、長瀬ちゃん。いいの。これは私みずからが望んだことなのだから。
- 源二郎
- で、でも!
- 月島
- 私も考えていたよ。人間全てが同じ生体電波を持つことなんておかしいとね。優れた人間こそが強い生体電波を持っているはず。
(瑠璃子を振り向く)私の、この私の妹がね!- 瑠璃子
- 私気が付いてたの。幼い頃から私が持ってるこの不思議な力が、兄さん達が研究しているものだって。だから、、、
- 源一郎
- (ニヤリと笑う)では、始めよう。
- 源二郎
- やめろーっ!
源一郎が手元のレバーをぐいと引くと、ガラスカプセル中に不可思議な放電。がくがくと震える瑠璃子。だが、歯を食いしばってけなげに耐える。
- 月島
- おおお、すばらしい、すばらしいよ瑠璃子。この強烈な生体電波!みたまえ源二郎君、はははは。
瑠璃子、がくがくと震えながらも耳を真っ赤に染めて喜悦の表情を浮かべる。源二郎は、瑠璃子の股間に秘液があふれていることに気付く。
- 源二郎
- る、瑠璃子さん、、、
- 長瀬博士(声だけ)
- それから、何度も何度も、我々は瑠璃子さんを使っての生体実験を行った。
- 沙織(声だけ)
- (怒りに震えて)酷い、、、
- 長瀬博士(声だけ)
- そのとおり。とても許されることではない。だが我々は、どれが酷いことだと思いすらしなかった、一人源二郎を除いて。
そして、、実験を繰り返すうちにツキシマは気付いたのだ。生体電波、人間エネルギーたる生体電波は、生命の根元であるリビドーによって、性的絶頂によって無限に増幅されることを。寝室のドアをばん、と開ける源二郎。ベッドで月島の組み敷かれている瑠璃子。
- 源二郎
- (絶叫)あ、あんたはなんて事をしているんだ!
- 月島
- (悠然と)おやおや、人のプライベートルームに踏み込むとはあまり誉められた行為ではないね(と云いながらも、ぐぐいと腰を進めて瑠璃子を攻める)。
- 瑠璃子
- (こらえきれず甘い声を上げる)あ、あふっ!
- 源二郎
- る、瑠璃子さん(語尾は消え入るように)。
- 瑠璃子
- み、見ないで!
- 源二郎
- あ、あんたって人は、、、実の妹を、、、
- 月島
- (源二郎の難詰には答えず)私はね、最近分かったんだよ。生体電波は体の結びつき、性的絶頂によって増大し、そして相手の生体電波も誘起するとね。
(激しく腰を動かす)ほら、ほら、瑠璃子の電波が私の電波をやさしく包んでいるよ! おお、私の、私の電波が強くなって行く!源二郎、言葉も無くすごすごと部屋から出て行こうとする。
- 月島
- (瑠璃子の表情を見る)ん?どうやら君に見てもらっていると瑠璃子の電波が燃え立つようだ。羞恥心も一つのキーワードか。今日の実験は有意義だよ、源次郎くん!
屈辱に震える源二郎。瑠璃子の目に涙が浮かぶ。
- 沙織(声だけ)
- 実のお兄さんに、、、かわいそうに、、、
- 長瀬博士(声だけ)
- そして、あの日が来た。
夕下がり。源二郎、廊下にたたずんでいる。廊下を瑠璃子が通り過ぎる。顔を赤らめ、視線を逸らす瑠璃子。
- 源二郎
- 瑠璃子さん、待ってくれ!
瑠璃子、源二郎の声を振り切って掛け去る。瑠璃子を追いかける源二郎。
庭に走り出る瑠璃子。手に持つ書類がばさばさ、と落ちる。屋敷の庭園にある林の中に逃げ込む瑠璃子を追いつめる。
- 瑠璃子
- (声が震える)な、何の用?
- 源二郎
- 逃げよう、瑠璃子さん。こんな所から逃げるんだ。
- 瑠璃子
- な、長瀬ちゃん、、、
- 源二郎
- こんな所にいたら、君はどんどん不幸になるだけだ。僕は、僕は、、、
- 瑠璃子
- 私は、もう汚れちゃってる、、、長瀬ちゃんにはふさわしくないの、、、
- 源二郎
- そんな事ない!
源二郎、瑠璃子を硬く抱きしめる。と、二人の周りに細かい光の粒が集まる。
- 瑠璃子
- やっぱり、やっぱりこれはあなただったのね、、長瀬ちゃん、、、
- 長瀬博士(声だけ)
- そして二人は私たちの前から消えた。膨大な実験データ、源二郎が設計した生体電波収集装置であるふきふき回路の設計図もろとも。
- 沙織(声だけ)
- ふきふき回路!これが毒電波を集める装置ですって?!
- 長瀬博士(声だけ)
- 二人は逃げた。だが、ツキシマが電波を使って瑠璃子さんを探し出すまでにさほど時間はかからなかった。
人気のない山の中にある山小屋。車が次々と現れて山小屋を取り囲む。毒電波で操られたやくざもの達が山小屋を襲う。
突如、やくざものたちが絶叫。互いに殺し会う。そこへ現れる源二郎。手には自動小銃大の装置を抱えている。
- 源一郎
- (眉をぴくつかせながら)愛の巣、というわけか。さぞやお楽しみだったろうな源二郎。
- 源二郎
- (頬がこけ、目にくまが出ている)遅かったようだね、兄さん、月島さん。俺はもう生体電波を自由に制御する装置を完成したよ。この生体電波銃と俺と瑠璃子の電波さえあれば世界は思いのままさ。
- 月島
- 貴様!やはり瑠璃子と寝たな!電波の力を瑠璃子をからもらったな!
月島、電波を源二郎に向ける。源二郎も生体電波銃で立ち向かう。さしものツキシマも生体電波銃には押される。
- 月島
- ぬ、ぬぅっ!
- 源二郎
- (邪悪な笑みを浮かべる)トドメだ!
生体電波銃の威力に押され、月島倒れる。勝利の雄たけびを上げる源二郎。源二郎の元にかけよる瑠璃子。
- 源二郎
- これで、よかったのか、瑠璃子。
- 瑠璃子
- 長瀬ちゃんが望むなら、、、。(源二郎によりそって)これであなたの前に立ちふさがる壁はもう無いわ。
突如、パン、という乾いた音。源二郎の腕の中にいる瑠璃子ががくり、と倒れる。倒れていた月島の放った凶弾が瑠璃子を撃った。
- 源二郎
- (絶叫)瑠璃子!瑠璃子!
貴様、実の妹を!- 月島
- 貴様が、貴様が瑠璃子を汚したんだ!俺だけの瑠璃子を!
- 源二郎
- 勝手なことを!瑠璃子は俺のものだーっ!
源二郎絶叫しつつ生体電波銃を再び月島に向ける。が、銃の制御がきかなくなる
- 源二郎
- (銃からの以上放電に苦痛の叫びをあげる)う、うわぁぁぁぁぁ!
- 月島
- (狂気の笑い声)死ね!死んでしまえ!俺の瑠璃子を汚した罪だ!
ついに、銃が爆発。消し飛ぶ源二郎。呆然と立ち上る煙を見つめる源一郎。
- 源一郎
- (涙で顔がぐしゃぐしゃにぬれている)あの、やさしい源二郎が、、恐ろしい電波だ、、、まさに毒電波だ、、
そこに、山小屋の中から赤ん坊の泣き声が聞こえる。ふらふらと歩み寄ると、屋への中央、ゆりかごの中に泣きじゃくる赤ん坊がいる。
- 源一郎
- 新しい命か、、、源二郎の代わりにお前が、、(と、その赤ん坊を抱きかかえる)
- 沙織(声だけ)
- それが祐クンなの?
- 長瀬博士(声だけ)
- そうだ。だが、私は怪しむべきだった。源二郎が消えてからこの短期間に赤ん坊が出来るはずが無いのだ、、
ちゃらっちゃー、ちゃちゃっ!
人造人間さおりん
〜コマーシャル〜
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